パーキンソン病患者の6分間歩行試験前後の膝伸展筋力・呼吸筋力と疲労の関係について

  • 成田 雅
    医療法人 札幌山の上病院 リハビリテーション部
  • 高田 一史
    医療法人 札幌山の上病院 リハビリテーション部
  • 横井 玲子
    医療法人 札幌山の上病院 リハビリテーション部
  • 清水 兼悦
    医療法人 札幌山の上病院 リハビリテーション部
  • 高橋 光彦
    北海道大学保健医療学部 保健科学研究院

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説明

【はじめに、目的】パーキンソン病(以下,PD)患者において疲労は32~56%にみられ,年齢や性別・罹病期間や重症度などとの関連はみられないとされている.疲労の病態生理や治療法を考慮するうえで,末梢性疲労と中枢性疲労とを区別すべきであるとされている.中枢性の疲労は,大脳皮質や大脳基底核・視床・辺縁系間の連絡断裂によって生じると考えられているため,パーキンソン病による疲労は中枢性とされているが,変換運動などで速度が急速に低下する疲労現象も認められるため,主観的な疲労感は伴わずに,運動症状の重症度と関連するといわれている.そのため,疲労を身体疲労(physical fatigue)と精神疲労(mental fatigue)に分類して,PDでは,これらが独立して存在するとされている.今回,PDにおける6分間歩行試験(6MWT)前後に膝伸展筋力・呼吸筋力の計測,また疲労についての問診を行い,末梢骨格筋(呼吸筋力,下肢筋力)との関連について検討を行った.【方法】対象者は呼吸・循環器に明らかな既往がないPD患者8名(性別:男性4名,女性4名,年齢66.9±6.5歳,Hoehn-Yahrのstage分類:Ⅱ:3名,Ⅲ:5名)とした.6MWTは,ATSのステートメントに準じて計測を行い,6分間歩行距離(6MWD)を測定した.膝関節筋力の計測は,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製等尺性筋力計測装置μ-tas F-1)を用いて,膝の伸展筋力を左右ともに2回測定し,そのうちの最大値を採用し体重比百分率(%)に換算し,固縮の優位側と非優位側に分類した.呼吸筋力は,ミナト社製電子スパイロメータAS-507,呼吸筋力計AAM337にてPImaxとPEmaxを各3回実施して,最大値を採用した.6MWT前後のPEmax,PImax変化率(6MWT後/前×100:%)を呼吸筋持久性,膝伸展筋力の変化率(6MWT後/前×100:%)を下肢筋力持久性の指標とした。疲労については,日本語版Multiple Fatigue Inventory(MFI),Parkinson Fatigue Scale(PFS-16)を用いて評価を行った.呼吸筋や下肢筋力持久性と6MWDやMFI,PFSとの関連についてピアソンの相関係数,6MWT前後でのPEmax,PImax,膝伸展筋力を対応のあるt検定で比較検討した.【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として本研究はヘルシンキ宣言に従った.対象者には研究の趣旨と内容を十分に説明し,同意を得たうえで測定を開始した.個人情報保護の遵守を伝え,データ管理を厳重に行った.【結果】6MWDは438±68メートルだった.膝伸展筋力は,6MWT前で固縮優位側42.8±6.0%,非優位側46.6±17.1%であり,6MWT後は,固縮優位側35.9±10.6%,非優位側53.1±17.5%であった.変化率は,固縮優位側82.5±14.8%,非優位側118.8±33.4%であった.膝伸展筋力において、6MWT前後の有意な差は認められなかったが,固縮優位側と非優位側においての変化率において優位な差を認めた(p<0.05).呼吸筋力は,6MWT前PImaxは56.2±28.2cmH2O,PEmaxは39.0±11.6cmH2Oであった.6MWT後PImax61.3±30.7cmH2O,PEmax39.1±12.4cmH2O,変化率はPImaxが90.7±11.9%,PEmaxが100.3±5.0%であった.呼吸筋力は,6MWT前後で有意な差は認められなかった.MFIは48.2±24.3点で,Parkinson Fatigue Scaleは2.6±0.9点であった.固縮優位側の膝伸展筋力の変化率とPFS-16との間で負の相関が認められた(r=-0.88,p<0.05)が,非優位側では相関関係を認めなかった.【考察】PD患者において,6MWT前後の膝伸展筋力では固縮がより強い側について優位に筋力の減衰が認められたことから,固縮筋における拮抗筋の影響により筋疲労を強く引き起こしている可能性が示唆され,PDにおけるとして固縮による筋疲労が一因となっている事が示唆される.また、膝伸展筋力とPFS-16に負の相関を認められたことから,PDにおいて膝伸展筋力の持久性低下が疲労を規定する因子となりえる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】今回,PD患者において膝伸展筋力持久性の評価や自覚的疲労感を測定して,末梢骨格筋の持久性や運動耐用能および自覚的疲労感についてより詳細に評価を行うことによりPD患者一人一人に適した理学療法を処方できる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101800-48101800, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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