不全脊髄損傷者の屋外歩行自立に関連する下肢機能と歩行能力
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【はじめに、目的】近年、脊髄損傷は不全損傷が増加傾向にある。不全損傷の中でも損傷高位以下に運動機能が残存する者では歩行能力を再獲得する可能性が高く、リハビリテーションの大きな目標の一つとなる。不全損傷者の歩行は健常人に比べて歩行速度や持久性が低下するため、屋内歩行は自立するが屋外歩行が自立に至らない場合がある。また、不全損傷者では損傷部位以下の両側に麻痺が生じるため、機能の左右差がみられることが多い。これまでに、歩行能力に関連する因子についての検討は、歩行の可否や屋内歩行の自立に関連する検討が多く、屋外歩行の自立に関して検討した報告は極めて少ない。そこで本研究の目的は、不全脊髄損傷者の屋外歩行の自立に関連する下肢機能を明らかすることと、屋外歩行が自立となる歩行能力指標のカットオフ値を得ることとした。【方法】A病院に入院中で平地歩行が可能な不全脊髄損傷者54名を対象とした。受傷後日数は107.3±60.9日、AISは全例D、四肢麻痺38名、対麻痺16名であった。下肢機能評価は、ASIAの評価基準の下肢筋力スコア(LEMS)と膝関節屈曲筋と足関節底屈筋の合計得点である複合MAS(CMAS)を使用した。LEMSとCMASは左右別々に算出し、LEMSは点数の高い側を軽度LEMS、低い側を重度LEMS、CMASは点数の低い側を軽度CMAS、高い側を重度CMASとした。また、左右差についても算出し、LEMS差、CMAS差とした。歩行能力の評価は、10m歩行テストと6分間歩行テスト、Walking Index for Spinal Cord Injury(WISCI)を用いた。10m歩行テストでは快適歩行速度(CWS)と最大歩行速度(MWS)を算出した。屋外歩行の自立の指標にはSpinal Cord Independence Measure(SCIM)の屋外の移動の項目を用い、得点が0-3点を非自立、4-8点を自立とした。各指標間の相関関係にはSpearmanの順位相関係数を用い、性別と損傷レベルの群間比較にはカイ2乗検定、屋外歩行自立群と非自立群の群間比較には対応のないt検定を用いた。屋外歩行自立に関連する因子の検討には、SCIM屋外の移動を従属変数、年齢・性別・損傷レベル・発症後日数・重度LEMS・軽度LEMS・重度CMAS・軽度CMAS・LEMS差・CMAS差を独立変数としたステップワイズ法による多重ロジスティック回帰分析を用いた。屋外歩行が自立となる歩行能力のカットオフ値はROC曲線を作成し、Youden indexにより算出した。それぞれ有意水準5%で検証した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会の承認(承認番号:10-513)を得て、実施した。全ての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし、文書による同意を得た。【結果】屋外歩行自立群は22名(男18名・女4名、四肢麻痺15名・対麻痺7名)、非自立群は32名(男29名・女3名、四肢麻痺23名・対麻痺9名)であり、性別および損傷レベルは群間に有意な差はみられなかった。屋外歩行自立群の年齢は43.9±13.1歳、軽度LEMSは22.8±2.5、重度LEMSは20.2±3.7、軽度CMASは2.3±1.7、重度CMASは3.4±2.2、CWSは1.1±0.3 m/s、MWSは1.5±0.4 m/s、6MDは463.9±117.1 m、WISCIは17.9±2.8であり、非自立群の年齢は52.6±15.5歳、軽度LEMSは20.3±1.9、重度LEMSは18.5±2.3、軽度CMASは2.8±2.1、重度CMASは3.3±2.3、CWSは0.9±0.2 m/s、MWSは1.2±0.3 m/s、6MDは353.2±78.4 m、WISCIは12.8±2.2であった。群間の比較において、年齢、軽度LEMS、重度LEMS、CMAS差、CWS、MWS、6MD、WISCIでは群間に有意な差がみられたが、発症後日数、CMAS、LEMS差では有意な差はみられなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果、SCIM屋外移動の自立と軽度LEMS(オッズ比:1.66、95%信頼区間:1.23-2.23、p<0.01)の間には有意な関連が認められた。軽度LEMSのカットオフ値は23.5 (AUC 0.78)、CWSは0.94 m/s (AUC 0.76)、MWSは1.30 m/s (AUC 0.76)、6MDは390.5 m (AUC 0.77)、WISCIは14 (AUC 0.86)であった。【考察】軽度LEMSが屋外歩行自立と有意な関連があり、カットオフ値が満点25に近い23.5であったのは、左右の対称性よりも正常に近いレベルの一側の筋力が屋外歩行の自立には必要となるためではないかと推察する。CWSとMWSのカットオフ値は地域生活で必要とされる歩行速度(0.9~1.2 m/s)と近似していたため、有用な指標となると考える。【理学療法学研究としての意義】不全脊髄損傷者の屋外歩行の自立には、軽度LEMSが関連し、4つの歩行能力指標のカットオフ値にも中等度の信頼性がみられたため、得られた指標は理学療法の評価、治療介入、ゴール設定等に有用となる可能性が示唆された。歩行能力等が本研究から明らかとなったカットオフ値に達しているが屋外歩行が自立していない症例では、感覚機能や関節可動域制限などの因子を含めた治療介入を計画する際の一助となる可能性が示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101745-48101745, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680552264064
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- NII論文ID
- 130004585905
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可