脳卒中片麻痺における至適歩行速度に関連する歩行パラメータについて

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抄録

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力を表す指標として,最大歩行速度(MWS)を用いた研究が数多く存在し,MWSと歩行パラメータとの関連を検討した研究も多い。それに対して,本邦における報告は少ないが,通常の速さで歩かせたときの至適歩行速度(OWS)の有用性も注目されている(Holdenら,1984;Perryら,1995;Kollenら,2006)。そこで本研究では,OWSにどのような歩行パラメータが関連するかを検討する。特に運動学的なパラメータに注目して,OWSの有用性を確認することが目的である。【方法】対象は,歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者31名(男性19名,女性12名;右麻痺15名,左麻痺16名;平均年齢63.4±12.2歳)とした。歩行パラメータの測定には民生用のデジタルビデオカメラ(DVTR)を用いた。水平な床に三脚に取り付けたDVTR(Panasonic社製HDC-TM60)を設置した。DVTRは最大広角とし,レンズ中心の高さは被検者の大転子の高さに設定した。被検者には,身体に密着していないスラックスなどの衣服を着用した状態で,直径2.5cmの円形の赤色マーカーを貼付したゴム製のベルトで衣服がずれない程度に軽く巻き,さらに面ファスナーで留めた。マーカー貼付部位は,両下肢の大転子,大腿骨外側上顆の近位10cmの部位,腓骨頭,外果の近位10cmの部位とした。日常的に使用している杖・装具・靴の使用は認めた。歩行路は,DVTRの撮影画面に対して平行で,約4m離れた位置に設定し,DVTRの撮影画面に収まる約4m(助走距離は2m以上)とした。被検者がOWSで歩行路を3往復する様子をDVTRで撮影し,動画ファイルとしてパソコンに取り込んだ。測定対象とする相は,精度が確認されている画面範囲に映る時のイニシャルコンタクト,ローディングレスポンス,ターミナルスタンス,イニシャルスイング,遊脚時最大膝屈曲時とした。歩行パラメータとして,各相における膝関節の角度測定,および各相間における大転子および腓骨頭の進行方向への移動距離と重複歩距離をImage J(freeware)にて,各相間の所要時間と歩行周期の所要時間をVirtualDubMod(freeware)にて測定した。いずれのパラメータも,事前に高い測定精度が確認されている条件で測定を行った。OWSは重複歩距離を歩行周期の所要時間で除して求めた。OWSに影響すると考える共変量として,性別,年齢,身長,体重,罹病期間,麻痺側(右/左),下肢Brunnstrom stage,足底触覚,母趾位置覚,足背屈関節可動域,非麻痺側大腿四頭筋力,非麻痺側握力,麻痺側および非麻痺側の下肢荷重量をカルテ情報および測定にて求めた。統計的解析は,OWSを従属変数とし,各歩行パラメータ,各共変量を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いた。さらに,重回帰式から求めた予測値と歩行速度の実測値の関係を散布図で観察し,大きく離れた者が存在しないか確認した。【結果】重回帰分析の結果,OWSを予測する上で麻痺側単脚支持期における大転子の移動距離,非麻痺側立脚相の所要時間,非麻痺側握力が有意な変数として選択された(p<0.05,R2乗=0.94)。各変数間の相関係数は高くなかったため,多重共線性の問題はなかった。麻痺側単脚支持期における大転子の移動距離が大きく,非麻痺側立脚相の所要時間が短く,非麻痺側握力が大きければOWSが速くなることが分かった。予測値と歩行速度の実測値の散布図を確認すると,大きく離れた者は存在しなかった。【考察】本研究では,運動学的なパラメータとして,各相における膝関節角度,各相間における腓骨頭および大転子の進行方向への移動距離,各相間の所要時間を測定した。その中で,麻痺側単脚支持期における大転子の移動距離と非麻痺側立脚相の所要時間が選択された。いずれの変数も下肢Brunnstrom stageとの相関が認められた(r=0.72,-0.72)ことから,麻痺側下肢機能と関連していることが分かった。また,共変量からは非麻痺側握力が選択された。握力は全身的な筋力を予測し得る指標との報告(金指ら,2014)があるため,歩行における非麻痺側筋力の重要性を示している。【理学療法学研究としての意義】先行研究にてOWSは臨床上有用との報告がある。本研究は,脳卒中片麻痺におけるOWSを予測する上で有意な3つの変数を示すことができたことに意義がある。

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  • CRID
    1390282680552291328
  • NII論文ID
    130005248753
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1106
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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