遠心性収縮運動は歩行時膝関節角度を変化させるのか

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抄録

【目的】開放性運動連鎖(Open Kinetic Chain: 以下OKC),閉鎖性運動連鎖(Closed Kinetic Chain:以下CKC)における筋活動や,運動形態の違いを示す研究は数多い.加藤らはOKCでの筋力とCKCでの運動スキルは必ずしも同程度ではないとしている.OKC運動は主動作筋の運動を優位にして筋力強化に優れるのに対し,CKCでは協調した運動を行うため,実際の運動に即した強化ができるといえる.この違いは運動中の筋の動員様態が両者で異なることを示し,OKCでは様々な運動様式に汎化しにくいと考えられる.歩行においては,関節の運動方向とは逆方向に筋収縮が起こる遠心性収縮(Eccentric Contraction:以下ECC)により制御される運動相が多く,動作を円滑にしている.また求心性収縮(Concentric Contraction:以下COC)も運動方向の調節に重要である.今回,OKCの概念での筋収縮様式で運動を実施することが,歩行中の身体にどのような影響を及ぼすかについて検討した.どのような種類の運動が歩行機能の強化に妥当であるかを検討するため,健常男性において,運動前の歩行(Normal Gait:以下NG),ECC運動後の歩行,COC運動後の歩行を行わせ,膝関節角度の変化を撮影し比較検討した.歩行中の膝関節角度変化の結果は,臨床で歩行指導する際の,基礎データとして有用と考えられるからである.【方法】対象は健常男性5 名(23.4 ± 0.54 歳)で,10mの平坦な歩行路で実施した.画像は,マークを大転子,大腿骨外側上顆,外果に貼付し,デジタルカメラで各被験者の膝関節レベルを5mの距離から,30fpsで撮影した.その画像データをフリーソフトのImage-J(アメリカ国立衛生研究所開発)を用い座標点を数値化した.ECC,COCの各運動は重垂負荷1kgとし,5 秒間の収縮を20 回反復させた.運動方法は各運動とも背臥位にて膝関節の自動運動を行った.ECCは開始肢位を膝関節伸展位とし,屈曲運動を行った.COCは開始肢位を膝関節屈曲位とし,伸展運動を行った.どちらの運動においても開始肢位に戻る際は筋を弛緩させた.歩行条件としては,メトロノームにてCadenceを107steps/min,Stepは70cmとした.そして,各運動を実施し60 秒後に10mの歩行を行わせた.撮影後の膝関節角度の平均値算出方法は,初期接地期を1 コマ目とした場合,8 コマ目が立脚中期となり,1 〜8 コマの膝関節角度の値とした.また,再現性を高めるため,各被験者に2 回の歩行を行わせそれぞれの平均値を使用した.以上の値をNGとECC運動後歩行,NGとCOC運動後歩行について比較した.統計処理にはR3.15.0を用い,t検定にて有意水準は5%とした.【説明と同意】本研究を実施するにあたって,対象者全員に研究の目的と方法を口頭及び書面にて説明し同意を得た.また,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関して,当院の倫理委員会にて承認を得た.【結果】歩行時膝関節角度はNG群で17.8°(± 2.79).ECC群で19.1°(± 2.66).COC群で17.7°(± 1.44)であった.NG群とECC群の比較では有意差が認められた.FG群とCOC群の比較では有意差が認められなかった.【考察】本研究はOKCによる運動において,ECCとCOCの2 種類の方法を用い,歩行立脚期における膝関節角度を比較した.結果より,NG群とECC群では差が認められた.これは,ECCの特徴でもある,筋の逆収縮が影響したと考えられる.逆収縮によって,筋の起始部から停止部への収縮の波及がおこり,OKCによる運動であったが,CKC運動に近い収縮様式となったと考えられる。また,膝関節を屈曲させながらの運動であるため,副運動として下腿が前方に滑り,それに伴って膝関節は屈曲方向に運動したと考えられる.COC群ではNG群との差がなかった.これは,COCにおける収縮は歩行中に膝が伸展するに伴い,下腿の大腿骨に対しての位置が相対的に後方になり,膝関節が伸展方向へ位置したままの状態であったためNG群と大きく変化を見せなかったと考えられる.以上より,各運動とも荷重下では末梢側からの運動連鎖の影響を受けやすいため,下腿の位置関係によって膝関節角度が変化したと推察する.【理学療法学研究としての意義】本研究はECCとCOCの2 種類の運動を用い,歩行における身体変化を客観的に検証したものである.OKC運動においても筋の収縮様式に考慮することが動作に結びつきやすいと考え,収縮様式も考慮に入れた指導を行っていく必要があると再認識した.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101915-48101915, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552329088
  • NII論文ID
    130004586021
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101915.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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