一側下肢の足底感覚低下が歩行動態に及ぼす影響
Description
【はじめに、目的】足底からの感覚情報入力は立位姿勢制御に重要な役割をなし,足底感覚低下は立位時の身体バランス調整に影響を与える。感覚障害は両足底ともに同程度認められる場合もあるが,一側の足底の感覚低下がより強く認められることもある。つまり,一側の足底感覚を低下させた場合の立位への影響を明らかにすることは,臨床的に重要である。また,足底感覚低下が立位バランスに与える影響に着目した研究は多いが,一側下肢の足底感覚低下が歩行時の下肢関節運動と運動力学的挙動に及ぼす影響について十分な知見は得られていない。よって本研究は,一側足底感覚低下が歩行時の下肢関節運動と運動力学的挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】被験者は下肢及び腰部に手術の既往がない大学生10 名(平均年齢20.7 ± 0.9 歳)とした。一側足底の感覚低下を生じさせるために,被験者の軸足の足底を細かく砕いた氷の上に置いて冷却した。感覚低下の指標としてノギスにより二点識別覚を測定した。冷却条件は,母趾球,踵部の二点識別覚が,それぞれ冷却前の1.5 〜2 倍になることとした。歩行中の運動力学データ計測のため,赤外線カメラ8 台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON Motion Systems,Oxford)を用いた。同時に床反力計(AMTI,Watertown)8 枚を用い,床反力の計測を行った。被験者は自由速度にて歩行を行った。計測は冷却前,冷却直後,冷却終了5 分後(以下:5 分後),冷却終了15 分後(以下:15 分後),冷却終了30 分後(以下:30 分後)の5 条件で行った。得られた運動力学データと身長・体重から,歩行データ演算ソフトBody Builder(VICON Motion Systems社,Oxford)を用いて関節角度,関節モーメント,床反力を算出した。本研究は,関節モーメントは内部モーメントを示した。得られた関節モーメント,床反力は時間正規化を行い,各条件3 回の施行を加算平均した値を代表値とした。得られたデータのうち,冷却側下肢の関節モーメント,床反力を解析した。関節モーメントおよび床反力は体重で補正した値を用いた。なお,p<0.05 をもって有意とした。解析にはDr,SPSS for windows(エス・ピー・エス・エス社,日本)を使用し,反復測定による分散分析を行ったのち,Tukeyの多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】研究の実施に先立ち広島国際大学の倫理小委員会にて承認を得た。なお,すべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得たうえで計測を行った。【結果】冷却直後と5 分後の母趾球と踵の二点識別覚は,冷却前と比較し有意に低下した。股関節屈曲伸展モーメントは,5 分後,15分後,30分後の立脚後期の最大屈曲モーメントが,冷却前と比較し有意に減少した(冷却前:-0.706±0.217Nm/kg,5分後:-0.655 ± 0.180 Nm/kg,15 分後:-0.652 ± 0.174 Nm/kg,30 分後:-0.643 ± 0.184 Nm/kg)。膝関節屈曲伸展モーメントは,冷却直後の立脚初期の最大屈曲モーメントが,冷却前と比較し有意に減少した(冷却前:-0.280 ± 0.169 Nm/kg,冷却直後:-0.207 ± 0.134 Nm/kg)。足関節背屈底屈モーメントは5 条件の間で有意な差は認められなかった。床反力左右成分,前後成分,鉛直成分は5 条件の間で有意な差は認められなかった。【考察】本研究の結果,冷却直後の立脚初期の膝関節最大屈曲モーメントは,冷却前と比較し有意に減少した。足底の固有受容器障害は,床への接地感覚の障害につながる。このとき,運動制御に問題がなければ,膝関節を固定させるか,関節モーメントを減少するよう床反力ベクトルを関節の近くに通す補償戦略を行うことが推測される。本研究結果から,冷却直後は,膝関節近くに床反力が通るように動作戦略を変化させたために,立脚初期の膝関節の最大屈曲モーメントの減少が生じることが示唆された。また,冷却5 分後,15 分後,30 分後の立脚後期の股関節最大屈曲モーメントは,冷却前と比較し有意に減少した。足底の感覚受容器は主に前足部に集中している。足部からの感覚入力が低下すると,足圧中心が感覚感受性の低い部分から正常な部分へと移動する。つまり,本研究では,足底感覚全体が低下し,立脚後期に足圧中心はより感受性の高い前足部へ早期に移動したと考えられる。そのため,立脚後期の床反力モーメントが前方へシフトしてモーメントアームが短くなり,股関節屈曲モーメントが減少することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,一側の足底感覚低下が歩行時の運動力学的挙動に変化を与え,正常な歩行パターンからの逸脱を起こす可能性が示唆されたことである。本研究結果が,足底感覚情報が歩行に及ぼす影響を明らかにしたことはエビデンスとなりうる。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2012 (0), 48101946-48101946, 2013
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680552365568
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- NII Article ID
- 130004586048
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed