視床出血における出血の進展方向と歩行予後について

説明

【はじめに、目的】視床は大脳皮質と多くの神経線維連絡をしているために視床出血という診断名でも臨床上多彩な症状を呈する.また脳卒中外科研究会のCT分類では視床出血を6つに分類されているが,これらは各々の損傷を細分化し症状・特徴を考察することの重要性を反映している.視床周辺には内包や放線冠といった上行性・下行性の重要な神経路があり,出血の進展方向を判読・解釈することは障害把握や予後予測の一助となりうる.特に使用する装具の判断において,その情報は有益である.そこで本研究では,装具処方された視床出血患者に対し,CT画像より視床の解剖学的な位置関係をもとに出血の進展方向を分類し,退院時Functional Independence Measure(以下;FIM)の移動能力を後方視的に調査し,出血の進展と歩行予後との関係について調べた.【方法】対象者は当院に入院し装具を作製した視床出血患者11名(男性4名,女性7名),左麻痺4名,右麻痺7名であった.両側性の中枢神経障害を呈する者は除外した.年齢は69.0(44~92)歳である.対象者をFIM移動能力で分類し1~5点を独歩不可能群(以下;不可能群),6点7点を独歩可能群(以下;可能群)と定義した.視床出血患者における装具処方状況も検討した.CT画像の測定部位は脳梁体部レベルより上位の出血に関しては本研究では損傷関連領域が認めらなかったため除外し,脳梁体部レベルと松果体レベルで検討した.脳梁体部レベルでは視床背側核群と中心溝より前方の放線冠の損傷の有無を確認した.松果体レベルでは内包後脚の損傷の有無を確認し,次に視床前端から出血部位前端,視床前端から出血部位後端までの距離を求めて視床前後径で除した値を百分率で求めた.同様に視床内側端から出血部位内側端,視床内側端から出血部位外側端までの距離を求め視床内外側径で除した値を百分率で求めた.これらの値をもとに松果体レベルにおける出血の進展方向を同定した.得られた結果は分散分析とt検定とMann-Whitney’s U testにより有意水準5%で比較検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,当院倫理委員会の承認を得た.またデータは研究の目的以外には使用しないこと及び個人情報の漏洩に注意した.【結果】2群の内訳は不可能群が4例で全例が長下肢装具(Knee-Ankle-Foot Orthosis,以下;KAFO)を作製し退院時までKAFOで経過した.可能群はKAFO4例であり,全例がカットダウン可能であった.他はGait Solution Design1例,ORTOPLH2例であった.FIM移動点数は不可能群で1.0±1.2点,可能群は6.1±0.5点であり有意な差があった.出血の進展方向においては,出血部位内側端を視床内外側径で除した値は,不可能群で0.2±0.05,可能群で0.54±0.33で有意差があり,不可能群は視床内側方向への出血の進展が著明であった.また不可能群では内包後脚,視床背側核群,放線冠の全ての損傷が特徴的にみられた.【考察】不可能群では松果体レベルにおいて出血が内側に進展していることが歩行予後不良の一因となった.視床内側部は前視床放線を介して前頭連合野との関連性が知られており,損傷することで運動発現と随意運動障害による麻痺が重なる.加えて精神活動や認知機能にも影響を及ぼし学習活動の阻害因子になる.また視床中心内側核には髄板内核が隣接しており,脳幹網様体から求心性インパルスを受けていることから覚醒障害が生じる.視床出血は視床膝状体動脈の破裂によるものが最も多く,後外側腹側核を中心とした血腫を形成する.皮質脊髄路は,内包後脚の前方に位置することから外側への出血の進展による影響は比較的小さい.また不可能群で内包後脚,視床背側核群,放線冠の全ての損傷が特徴であり,松果体レベルより上位での出血の伸展性が予後に大きく影響していることが示唆される.理由としては,視床背側核と上頭頂小葉及び楔前部との関係から姿勢定位の障害がみられ,また隣接部では放線冠があり皮質脊髄路の障害が影響していると考える.北井らは視床より上位に出血が進展した放線冠の後半部の障害が下肢に強い片麻痺を出現させたと報告している.これらを考慮すると装具を作製した視床出血の予後予測においては,下肢機能のみに着目するのではなく前頭連合野の障害・覚醒障害・姿勢定位の障害などを考慮する必要がある.また視床出血では松果体レベルでの出血の進展方向に加え,松果体より上位方向への出血の進展に注目する必要がある.今後は発症時の出血量も検討し,更に対象者を増やして詳細な検討を行っていきたい.【理学療法学研究としての意義】視床は大脳皮質と多くの神経線維連絡をしており,視床出血の進展方向を判読・解釈することで視床出血の予後予測の一助となりうる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101818-48101818, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552403072
  • NII論文ID
    130004585959
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101818.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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