変形性膝関節症患者評価におけるTimed Up and Go testの臨床的解釈
説明
【はじめに、目的】Timed Up and Go test(以下:TUG)は1991年Podsiadlo&Richardsonによって歩行能力・動的バランス・身体機能を統合した機能的移動能力を評価するテストとして考案された。TUGは転倒リスク・Quality of life(以下QOL)との関連も報告されている。当院では変形性膝関節症(以下膝OA)患者の転倒リスクのスクリーニングとして使用している。本研究の目的はTUGを計測する有用性を明らかにする事、TUGに影響を与えている因子を挙げ明らかにする事である。【方法】対象は片側性膝OAと診断を受けた患者21例(男性8名、女性13名:Kellgren-Lawrence分類GradeII4名、III9名、IV7名) 平均年齢74.5±7.1歳、平均身長155±7.3cm、平均体重62.2±9.8kgである。評価項目は日本整形外科学会制定膝疾患治療成績判定基準(以下JOA)を聴取し、恐怖回避信条を評価する目的として日本語版Fear-Avoidance Beliefs Questionnaireの身体機能(以下FABQ-PA)、Visual Analogue scale(以下VAS)、膝OAの特異的QOL評価ツールであるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(以下WOMAC)、Body Mass Index(以下BMI)、関節可動域テスト(以下ROM) は股関節屈曲、伸展、内外転、屈曲位内外旋、中間位内外旋、膝関節屈曲、伸展、徒手筋力検査(以下MMT)は股関節屈曲、伸展、外転、膝関節屈曲、伸展を測定した。TUGはPodsiadloらの原法に基づき測定した。統計解析はTUGとその他の変数との関連度を見るためにSpearmanの順位相関係数を求めた。検定に先立ってデータが正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定で確認した。TUGスコアを従属変数、相関分析にて有意であった定数を独立変数とした重回帰分析によるステップワイズ法を用いてTUGに影響する因子を抽出した。JOAは患側の値を使用し、MMTのプラスマイナス表記は0.5増減にて用いた。多重共線性を考慮し相関係数が0.9以上の変数は除外した。外れ値の扱いは平均値±(3×SD)から逸脱するデータとした。効果量は中(r=0.3)に設定した。検定における有意水準は5%未満にて分析した。統計解析のためにR-2.8.1を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の内容を口頭ならびに書面にて十分に説明し、研究データの使用に対して同意を得ている。【結果】TUGの平均時間は14.85±6.31秒であった。FABQ-PA(r=-0.62)、ROM股関節屈曲(r=-0.57)、股関節外旋(r=0.62)、膝関節伸展(r=-0.49)、MMT股関節屈曲(r=-0.48)、WOMAC(r=0.47)、JOA(r=-0.58)、身長(r=-0.47)と有意な相関を認めた。重回帰分析によるステップワイズ法によりTUGタイムに影響を及ぼす因子として抽出された定数は、FABQ-PA(β=-0.54)、WOMAC(β=0.64)であった。分散分析p<0.001、自由度調整済みR²は0.523と有意であった。【考察】本研究では膝OA患者におけるTUGはFABQ-PAとWOMACが影響していることが示された。TUGと転倒は高い相関が認められている膝OA患者の転倒リスクはROMやMMTの身体機能だけではなく、QOLや恐怖回避信条の疾患特異性の側面を持つことが示唆された。TUGはQOLや恐怖回避信条を評価するWOMACとFABQ-PAを統合的に評価でき、臨床において有用かつ簡便な評価法と考えられた。【理学療法学研究としての意義】74.5±7.1歳の膝OA患者に対するTUGはFABQ-PA・WOMACが影響を与えていることが示された。臨床においてQOL、恐怖回避信条を把握する評価法としてもTUGは有用であると考えられた。
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2012 (0), 48101819-48101819, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680552404096
-
- NII論文ID
- 130004585960
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可