計測を意識するかしないかで歩行に違いがあるのか -前頭葉における局所脳血流量と歩容に着目した予備的研究-

DOI
  • 小野 圭介
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 伊藤 広和
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 佐伯 拓磨
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 寺本 達哉
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 宮脇 慎平
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 村上 拓弥
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 中嶋 宏成
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 佐藤 弘也
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 中島 裕介
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 青木 美佳
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 岡村 綾子
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科
  • 工藤 正太
    医療法人社団杏和会 おびひろ呼吸器内科病院 リハビリテーション科
  • 乾 光則
    社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院 リハビリテーション科
  • 小岩 幹
    社会医療法人北斗 北斗病院 医療技術部理学療法科

抄録

【はじめに、目的】限られた入院期間でより効率的に歩行能力が向上するために,理学療法中のみならずADLにおける歩行にも着目する必要がある.ADLにおける歩行は,理学療法中とは異なる歩容を呈している場合が多い.また,理学療法中は,理学療法士の監視下にあり,歩行自体に注意を向け意識して歩いている状態である可能性を考える.そのため,歩容のみならず歩行時の注意状態に関しても検討する必要があると考える.注意機能制御機構の中で,特に能動的注意制御(トップダウン制御)を行っている最重要な脳部位は前頭前野であると考えられている(酒井ら,2006).本研究では,歩行を意識している状態としていない状態を,歩行時の計測を認識しているか認識していないかで分類し,前頭葉における賦活の有無,程度及び部位と,歩容を比較し,理学療法中とADLの歩行における違いの要因を検討することが目的である.【方法】対象は,神経的,整形外科学的障害を有しない健常成人5 名(男性3 名,女性2 名,年齢24.6 ± 1.14 歳)である.この対象者に,「印がある地点までの歩行を計測します.」「歩行の計測が終了しました.一旦スタート地点に戻って下さい.」と統一して伝えた.スタート地点から印までにおける歩行の計測は,対象者が計測を認識している状態であり,この状態を,歩行を意識している状態(以下,意識歩行)と定義した.また,印からスタート地点までにおける歩行の計測は,対象者が計測を認識していない状態であり,この状態を,歩行を意識していない状態(以下,無意識歩行)と定義して計測した.評価は,前頭葉の評価に光イメージング脳機能測定装置(株式会社スペクトラテックSpectratech OEG-16)を使用し,酸化ヘモグロビン(oxygenated hemoglobin 以下,oxyHb)の濃度変化を計測した.歩容の評価には,3 次元動作解析装置(株式会社ナックイメージテクノロジー MAC3D System)及び解析ソフト(株式会社ナックイメージテクノロジー visual3D)を使用し,股,膝,足関節の最大関節角度,歩幅,歩行速度を計測した.歩行距離は当院の3 次元動作解析装置の計測限界距離が7mであるため,その往復距離となる14mとした.7m地点で印を設置し,往路を意識歩行,復路を無意識歩行に設定した.計測終了後,対象者にスタート地点に戻る際に計測を行っていたことを気付いていたかどうかを確認し,気付いていた場合は解析時に除外した.計測は3回実施し,最終的に計測終了と認識できる3回目の歩行中におけるoxyHb濃度平均,股,膝,足関節の最大関節角度,歩幅,歩行速度を意識歩行と無意識歩行にて比較した.統計は対応のあるt検定を使用した.解析にはSPSS20.0 を使用し有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、予め実験の目的および内容を口頭並びに書面にて説明し,実験参加への同意を得た.また,復路でも計測していたことの目的および内容を口頭並びに書面にて説明し,学術的利用を目的とした評価データの使用について同意の意思を確認した.【結果】oxyHb濃度平均では,2 群とも前頭前野背外側(以下,DLPFC)領域で安静時に比べ上昇し,無意識歩行時に比べ意識歩行時の方が有意に高値を示した(P<0.05).その他の前頭葉における脳領域では有意な差は認められなかった.各関節の最大関節角度,歩幅,歩行速度では有意な変化は認められなかった.【考察】本研究では,意識歩行にてDLPFC領域でoxyHb濃度平均が有意に高値を示し,歩容に関しては有意な変化は認められなかった.oxyHbの濃度変化は局所脳血流量と高い相関を持つことが報告されている(灰田,2002).よって,本研究の結果から,意識歩行時はよりDLPFC領域が賦活されたと考える.DLPFCの領域が担う働きは,注意の変換・分配と見直修正における実行機能であると考えられている(渡邊,2004).このことから,意識歩行時の方が,より注意して歩いていたことが示唆された.歩容に関しては変化がなかったことから,見かけ上変化がない場合でも,注意の状態は指示や環境によって変化する可能性があると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究により,歩行の計測を意識する,しないという状況のみの違いでも,脳内の活動に差があることが示された.このことから,歩行を意識している理学療法中とADLではもっと大きな違いがあるであろうことは容易に推察でき,今後この違いを検討する上で,有益な基礎研究であると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102076-48102076, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552686720
  • NII論文ID
    130004586145
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102076.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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