摂食・嚥下に対する理学療法・リハビリテーション治療の再考

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抄録

【はじめに】摂食・嚥下障害は脳血管障害の約40~60%に認められると報告されている。嚥下障害に対する報告は多いが、理学療法介入に関しての報告は少ない。しかし、臨床上で治療介入をした後その場で食事ができるようになった経験が少なからずある。そこで今回当院において普通食を食べている患者と嚥下食を食べている患者に対して一般的に言われている身体機能や障害部位がどれほど摂食・嚥下障害に関係しているか分析した。【対象と方法】2010年4月〜2012年4月に当院脳神経外科に入院した脳血管疾患患者322名(男性179名、女性143名)を対象とした。なお覚醒障害、脳卒中初発ではない者は除外した。方法は診療記録より後方視的に調査し、普通食群、嚥下食群に分け両群の性別、障害部位、出血梗塞、高次脳機能障害、NIHSS、mRSを比較した。また嚥下食群のなかで入院中に嚥下が改善した群(嚥下改善群)と退院まで嚥下食を食べていた群(嚥下非改善群)に分けそれぞれを同項目で比較した。なお統計学的解析にはフィッシャーのN×M分割表の場合のχ2 乗検定を使用し、有意水準は5% 未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い、個人情報保護のため得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。【結果】普通食群、嚥下食群では障害部位、出血梗塞、NIHSS、mRSでは有意差を認めなかった。高次脳機能障害では有意差を認めた(P<0.05)。内訳は失行(P<0.05)、失認(P<0.01)であった。嚥下改善群と嚥下非改善群では障害部位の脳幹(P<0.05)と高次脳機能障害の失認(P<0.05)に有意差を認めた。また嚥下非改善群は少数ながら既往歴に逆流性食道炎、うつ病を有している患者が認められた。【考察】脳血管疾患による嚥下障害は一般的に言われている身体機能や障害部位よりも高次脳機能障害、既往歴(逆流性食道炎、うつ病など)が原因で嚥下機能が落ちている可能性が高いことが示唆された。高次脳機能障害では特に失認が影響を及ぼすことが分かった。今回の結果から、嚥下機能に対する理学療法として歩行などの基本動作練習で覚醒向上、アイスマッサージで口腔内の認知脳改善、表情筋や頚部筋のストレッチ・筋力増強運動により嚥下機能の向上を目的とした理学療法。さらにはADL上で環境を静かなものに変える、嗜好品をだす、あえて箸で食べてもらう、最低限必要な介助をするなどのADL練習で嚥下障害に対する理学療法・リハビリテーションアプローチができる可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回の研究により、当院における嚥下障害の原因が明らかとなった。また、摂食・嚥下機能と高次脳機能障害との関連性が再確認され、運動機能や動作能力について専門性が高い理学療法士と、日常生活活動動作に専門性が高い作業療法士が嚥下機能改善を目的に介入していくことは非常に有効であると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101982-48101982, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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