円背の有無が上肢挙上時の肩甲骨移動量に与える影響

DOI
  • 細木 梨恵
    医療法人 共済会 清水病院 リハビリテーション課
  • 佐伯 秀宣
    医療法人 共済会 清水病院 リハビリテーション課

抄録

【はじめに、目的】臨床において,肩関節疾患の対象者に携わる機会が多くあるが,円背姿勢を有する対象者の治療が長引くことが多いように感じる。つまり,円背姿勢であることによって肩関節に何らかの影響を及ぼしている可能性があると推測する。円背姿勢が肩関節に及ぼす影響を明らかにすることで,より効果的な理学療法の展開が可能になると考える。そこで今回は広義の肩関節の中から,まず肩甲胸郭関節のみに着目し,円背の有無による上肢挙上運動時の肩甲骨の運動性を検証することにした。【方法】対象は,研究計測期間に肩関節疾患・脊椎疾患(骨盤含む)の治療中ではない者の中から本研究に同意の得られた男性9 名(平均年齢26.0 ± 3.6,平均身長172.7 ± 5.5cm,平均体重61.0 ± 5.1kg)であった。方法は円背の有無による上肢挙上時の肩甲骨運動を皮膚マーカーを用い計測した。基準座位姿勢は上肢自然下垂位で足底を浮かせた端座位とした。その状態から両上肢を挙上させた時の肩甲骨の位置関係を調査した。同様な手順で円背姿勢での肩甲骨運動を調査した。皮膚マーカーは同一検査者が肩峰後角・肩甲棘内側端・肩甲骨下角に貼付し,上肢挙上前後に貼付し直した。また皮膚マーカーの再現性の検証として検査者内信頼性を求めた。各肢位での皮膚マーカーを前額面・矢状面方向から三脚で固定されたデジタルカメラにて静止画撮影を行った。撮影した画像をPCに取り込み,前額面から撮影した画像を基に,両上肢挙上に伴う肩甲骨側方移動量(脊椎-内側端距離,脊椎-下角距離)と,前額面・矢状面から撮影した画像を基に肩甲骨移動量(肩峰,内側端,下角)をImageJを用い算出した。また円背有無の判断のために,円背指数を自在曲線定規(株式会社シンワ測定社製)を用い算出した。円背有無の判断は,伊藤らが用いた円背指数15 基準とし,それ以上を円背有群,それ未満を円背無群とした。統計学的解析は,ImageJにて算出した数値をもとに円背の有無による両上肢運動に伴う肩甲骨側方移動量と肩甲骨移動量の相違を検証した。尚,統計はSPSS19 を用い有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究に先立ち,被検者全員に本研究の説明をして同意を得た。また本研究で得た個人情報は直ちに記号化し本人を特定できない状態にした。【結果】肩峰・内側端・下角に対する皮膚マーカー貼付の検者内信頼性はICC(1,1)は0.91 〜0.99,ICC(1,3)は0.97 〜1.0 であり,いずれも高い信頼性を認めた。円背指数は円背無群7.0 ± 1.7cm,円背有群19.2 ± 3.2cmであり,円背有群の方が統計学的に有意に高値を示した(p<0.01)。円背無しの状態から有の状態に姿勢変化させた時の脊椎-内側端距離は円背無時1.5 ± 6.8cm,円背有時20.1 ± 9.4cmであり,脊椎-下角距離は円背無時16.5 ± 7.9cm,円背有時24.1 ± 11.6cmであり,いずれも統計学的に有意差に外側移動していた(p<0.01)。円背無群と円背有群の上肢挙上時肩峰移動量の比較においては前額面では円背無群4.8 ± 1.7cm,円背有群7.5 ± 2.7cmであり,矢状面では円背無群7.8 ± 2.8cm,円背有群8.0 ± 1.8cmとなった。前額面では統計学的に有意に円背有群が運動していた(p<0.01)。上肢挙上時内側端移動量に関しては,前額面では円背無群2.7±1.0cm,円背有群2.5±1.6cmであり,矢状面では円背無群3.2 ± 0.9cm,円背有群2.9 ± 1.0cmであった。上肢挙上時下角移動量に関しては,前額面では円背無群4.4 ± 1.4cm,円背有群2.0 ± 0.7cmであり,矢状面では円背無群3.6 ± 1.2cm,円背有群2.0 ± 0.7cmとなった。前額面・矢状面とともに円背有群の方が有意に運動していなかった(p<0.01)。円背無群に比較して円背有群は有意に肩峰が運動し,下角は運動しにくいという結果になった。【考察】本研究の結果から,円背無群に比べ円背有群では前額面・矢上面共に下角の移動量が減少し,肩峰の移動量が増加していることが明らかとなった。これは円背無群と比べ円背有群では肩甲骨の運動軸が下方に移動したためと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において,円背有群では無群と比べ肩甲骨の運動軸が下角側に移動することがわかった。臨床において,円背がない対象者と同様な肩甲骨の動きを求めるのではなく,円背では動きの違いがあることを念頭に置いて理学療法を展開する必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101996-48101996, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552727680
  • NII論文ID
    130004586089
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101996.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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