運動失調に対する重錘負荷が脳血流量へおよぼす影響

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抄録

【はじめに,目的】従来より運動失調症状に対して四肢遠位へ重錘を負荷することで運動の改善が得られることが知られている。その作用機序は固有感覚系からの入力情報の増大とされるが,脳内での反応については明らかになっていない。本研究では近赤外線脳機能イメージング法を用いて重錘負荷が脳血流量変化に及ぼす影響について検討した。【方法】対象者は運動失調患者1名(橋背側海綿状血管腫摘出術後,30歳代女性,SARA9.5点),健常者1名(20歳代男性)であった。課題は両上肢で平行棒を把持した立位で前方の踏み台上へステップ動作を左右交互に繰り返す運動とした。その際,踏み台上面の5cm幅の目印内に足先を収めるように指示した。重錘負荷は0g,500g,1000gの3条件とした。各条件で20秒間の課題と30秒間の休息を6セット繰り返した。計測前に課題練習を行い動作の確認を行った。各条件間で血圧と脈拍を計測し疲労の有無を確認した。課題の成績は各セットでステップが不正確であった割合(以下エラー率)を指標とした。脳血流量変化は光トポグラフィー(日立メディコETG-7100)を用いた。3×5のプローブセットを国際10-05法のC1とC2が,各々左と右のプローブセットの中心に一致するように設定し,運動野と感覚野を中心に左右合計44チャンネルを計測した。ノイズおよびアーチファクトは除外処理を行い,ベースライン補正処理をセット毎に行った。各チャンネルの課題開始5秒から課題終了までの酸素化ヘモグロビン変化量の平均値を算出し(以下oxy-Hb,単位mMmm),脳血流量変化の指標とした。補足運動野および前運動野を反映する領域(以下Pre Motor/Supplmental Motor Area;P/SMA)と体性感覚連合野を反映する領域(以下Somatosensory Association Area;SAA)のoxy-Hbに関して重錘負荷の条件による差を反復測定分散分析およびTukey法を用いて比較した。統計解析はDr.SPSS2を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当センター倫理委員会の承認(H25-12)を得て,対象者へ十分な説明をし,書面にて同意を得た上で行われた。【結果】課題のエラー率は運動失調患者では条件0gで40.06±12.78%,500gで19.31±12.85%,1000gで33.33±5.97%であった。0gと比較し,500g%では有意にエラー率が減少した(p<0.05)。健常者では0gで4.17±3.03%,500gで5.63±3.02%,1000gで6.46±3.89%であり,有意な差はなかった。oxy-Hbは運動失調患者では右SAAが0gと比較して500gで有意に増加した(p<0.01)。健常者では左P/SMAで500gより1000g,左右のSAAで0gより1000g,500gより1000gで有意に減少した(p<0.05)。【考察】運動失調患者では重錘負荷条件500gで課題成績の改善を認めたが,健常者では重錘負荷による課題成績の差はなかった。これは重錘負荷による運動失調への効果が本研究でも得られたためと考える。小脳失調患者では課題成績の改善が認められた500g重錘負荷時に右SAAのoxy-Hbが増加した。一方,健常者では重錘負荷により左右のSAAのOxy-Hbが減少した。重錘負荷は筋紡錘から小脳への求心性入力を増大させ,小脳は体性感覚入力をもとに運動の誤差を修正する役割を果たす。この脊髄―小脳ループが障害された場合,大脳皮質による代償的な活動が生じることが予測される。本研究においては失調症患者で課題成績に対応して右SAAのoxy-Hbが増大しており,重錘負荷が大脳皮質感覚領野による小脳機能の代償を生じさせたことを示唆するものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】重錘負荷練習に対する科学的根拠の一助となる。また,運動失調患者が運動を行う際に脳のどの機能を利用しているのかを知ることにより機能回復を促進するためのストラテジーの開発につながる。

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