階段降段動作における内外側広筋の筋活動の特徴
説明
【はじめに、目的】階段降段動作は高齢者や有痛性膝疾患患者にとって困難な動作であり、疼痛を伴いやすい動作である。先行研究では歩行において、変形性膝関節症患者や膝蓋大腿関節痛を訴える患者では同年代の健常人と比べて大腿四頭筋の活動開始が遅延するとされている。また外側広筋に対する内側広筋の5msの時間的発火の遅れにより外側膝蓋大腿関節へのストレスは26%増大すると報告されている。階段降段動作は平地歩行と比較して膝蓋大腿関節への負荷が増大する動作であり、歩行時より大きい筋活動が要求されるだけでなく、広筋群の同期的筋活動による膝蓋骨安定化が求められると思われる。しかし降段動作の内外側広筋活動の時間的位相対称性や量的側面について詳細に検討した報告は見当たらない。そこで本研究の目的は、階段降段動作の遊脚相から立脚相を含めた内外側広筋の同時収縮割合と量的活動を調査し、通常歩行と比較することである。【方法】被験者は健常成人男性9 名(年齢28 ± 3.4 歳、体重64 ± 4.7Kg、身長172.6 ± 5.8cm)とし、体幹、下肢に整形外科的既往のある者は除外した。測定動作は通常歩行(ST)と階段降段動作(DS)の2 種類とし、それぞれ自由快適速度にて3 回の測定を実施した。階段は蹴上げ20cm踏面20cm、2 段を使用し、右足からの降段を行った。測定には床反力計(KISTLER 社製)と三次元動作解析システム(Oxford Metrics社製VICON512)を用いた。歩行では右下肢立脚相、階段では降段1 歩目の垂直分力を測定した。得られた垂直分力の出現時点から消失時点を立脚相と定義し、100 ポイントで時間正規化を行った。さらに立脚相を前期と後期に50 ポイントで分割し分析に用いた。DSでは右第2 中足骨底に貼付した赤外線反射マーカーが蹴上げ高を越えて下降する時点を遊脚相開始点とし、立脚相の垂直分力出現時点までを遊脚相と定義した。遊脚相も時間正期化した後、前期と後期に50 ポイントで分割し、遊脚後期を分析に用いた。また筋電計(ニホンサンテク株式会社製、1800Hz)を用いて右足の内側広筋(VM)、外側広筋(VL)の筋活動を測定した。筋電図より得られたデータは移動平均にて平滑化した。各筋電図測定値は最大随意収縮時の振幅値を100%として正規化した後、各相の積分値を求めた。また得られた筋活動データを元に、拮抗筋同士の同時収縮を示す%COCONをWinterの計算式より算出した。分析項目は、まず量的側面の評価として各相におけるVMとVLの積分値をSTとDS間、VMとVL間でそれぞれ比較した。また両筋活動の時間的位相対称性の評価としてVM、VLの平均化した波形より%COCONを求めST、DS間で比較した。比較には対応のあるT検定を用いた。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には事前に本研究の目的と手順を説明し同意を得た。【結果】VM、VLの筋活動積分値はSTに比してDSで全ての相で有意に高値を示した(VM:遊脚後期p<0.05、立脚前後期p<0.01。VL:遊脚後期立脚前後期p<0.01)。VM、VL間の筋活動積分値の比較ではSTでは全ての相で有意差を認めなかったのに対して、DSでは立脚相でVMが有意に高い筋活動を示し、立脚後期で著明であった(立脚前期p<0.05、立脚後期p<0.01)。%COCONではSTで全相に渡って高値を示したのに対し、DSでは立脚期に低値となり立脚後期で著明であった(ST/DS:遊脚後期95.3/96.2%、立脚前期96.2/93.7%、立脚後期88.3/77.9%)。【考察】VM、VLの量的側面から、STに比してDSでは立脚相だけでなく遊脚前期から予測的に高い筋活動を生じることで荷重の衝撃を緩衝する準備をすることが必要であることが示唆された。またDSの立脚相ではVMがVLに比して高値を示し、特に後期で大きな値を示した。また同時収縮の割合と位相対称性を示す%COCONにおいても、DSの立脚後期で相似波形からの逸脱を認めた。DSの後半相は膝屈曲域で大腿四頭筋が遠心性収縮を強いられる時期であり、膝蓋大腿関節への圧迫力が最も大きくなる。大腿四頭筋全体の力線は膝蓋骨を上外方へ引く傾向にあるため、最大の圧迫力を受ける位置で膝蓋大腿関節面の接触面積を最大化し応力分散を実現するため、VMの選択的に大きい筋活動が要求されたものと思われる。【理学療法学研究としての意義】階段降段動作では膝の屈曲角度が高まる立脚後期においてVLに対するVMの選択的な筋活動の増大が必要である。これらの知見は、階段降段動作に困難を生じる症例への理学療法介入を行う上で有用であると考える。
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2012 (0), 48101149-48101149, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680552955648
-
- NII論文ID
- 130004585463
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可