Suture bridging法を行なった上腕骨大結節骨折の理学療法成績
書誌事項
- タイトル別名
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- 内旋制限の残存傾向がある
説明
【はじめに】近年,上腕骨大結節骨折において,肩関節腱板修復術のSuture bridging法(以下本法)が応用されている.本法は大結節骨片を付着した腱板ごと上腕骨に固定するもので,本法で良好な固定が得られたという報告例が散見される.しかし,機能についての報告は少ない.そこで,今回は当院での本法の機能成績について考察を交えて報告する.【対象】2011年~2012年に上腕骨大結節骨折を受傷し当院にて本法による骨接合術を施行した7例7肩(男性4例,女性3例)を対象とした.受傷時平均年齢は67.2±8.9歳(57-78歳),全例とも肩関節脱臼により受傷,理学療法の平均期間は7.2±2.4か月(6.5-12か月)であった.【方法】後療法は腱板断裂術後に準じて行ない,5週間のUltra sling固定,術翌日より他動可動域訓練,3週より自動介助運動,6週より腱板筋力訓練を行なった.理学療法終了時の肩関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋,内旋),肩関節外転筋力,疼痛,主観的満足度,機能評価は日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下:JOA score)とConstant scoring systemを用いて評価した.なお,肩関節屈曲と外転については自動運動と他動運動を,伸展と外旋は他動運動の可動域を計測した.肩関節内旋可動域と肩関節外転筋力についてはConstant scoring systemに準じて実施し,肩関節内旋は手背で触れる脊椎レベルを計測,肩関節外転筋力は90°外転位で上腕遠位部にハンドヘルドダイナモメーターをベルト固定し等尺性筋力を計測した.疼痛と主観的満足度についてはVASにて評価を行なった.【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,入院時に書面で対象者または家族へ説明し同意を得た.また,データはID化し個人が特定できないようにした.【結果】理学療法終了時の7例の肩関節の平均可動域は,屈曲:自動140.0±16.8°(120-165°),他動156.4±9.4°(140-170°),外転:自動129.2±19.8°(100-155),他動145.7±17.4°(110-165°),伸展52.5±2.7°(30-55°),1st外旋59.3±12.7°(40-75°),2nd外旋72.9±11.9°(50-85°),内旋は平均第1腰椎レベル(第9胸椎-第3腰椎)であった.肩関節外転筋力は8.4±2.7 kg (5-11kg),疼痛は4±3.6mm(0-7mm),満足度は87.6±4.3mm(83-95mm),JOA scoreは88.9±7.6(77-98),Constant scoring systemは85.3±10.0(72-96)であった.【考察】上腕骨大結節骨折は4mm 以上の転位がある場合は,外科的に整復固定する適応があると考えられている.固定方法としてはスクリューやワイヤー固定などが一般的であるが,骨片自体に再骨折を生じる可能性があり,強固な固定を期待できないことが少なくない.また,固定材そのものによるインピンジメントの発生の可能性もある.上腕骨近位部骨折後の理学療法では,可動域制限を作らないことが重要である.今回の結果,屈曲や外転可動域はADL自立可能な範囲まで改善し,機能評価においても良好な結果を得た.また,疼痛の訴えがほとんどなく満足度も高いものであった.本法の利点としては,スクリューによる骨接合術と異なり,腱板及び骨片の表面にインプラントが突出しないため術後インピンジメントの発生予防に有効であること,骨片全体を広い面で圧着できること,脆い骨片に対しても比較的強固な固定ができることがあげられる.今回の結果においても,インピンジメント症状を訴えた例はなかった.また,強固な固定ができ早期から他動可動域訓練を実施できたことで屈曲・外転制限が少なかったと考えられる.そのなかで制限が一番強かったのは内旋である.多くの症例で内旋制限による結帯動作の制限が残存した.今回の対象は全例が肩関節脱臼による受傷であるために,骨折の発生機序としては大結節に付着する棘上筋・棘下筋・小円筋の牽引力による大結節の裂離が考えられ,その際の上記筋へのダメージが筋の伸張性が低下させ内旋制限につながったと考えられる.また,本法は大結節の強固な固定ができるが,そのために上記筋の伸張性が低下してしまうことも考えられる.以上のことから,本法の理学療法においては特に内旋可動域を改善させていく重要性が示唆された.上腕骨近位端骨折は全骨折の4~5%で,大結節単独骨折はそのうちの2%弱と言われ,アウトカムの報告自体が少ない.発生頻度の少ない骨折ではあるが,データの積み重ねが臨床において有意義になってくると考える.今回は症例数が少なかったが,今後は対象数をさらに増やして検討をすすめる必要がある.【理学療法学研究としての意義】本法を行なった上腕骨大結節骨折後の内旋制限の可能性が示唆された.理学療法介入に際して,内旋制限の改善が機能・ADL改善につながると考える.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101272-48101272, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680553054208
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- NII論文ID
- 130004585549
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可