椅子からの立ち上がり動作における座面高の違いと下腿前傾角との関係

Description

【はじめに、目的】椅子からの立ち上がり動作における足部位置は、その後の動作を円滑に行うためにも重要な要素である。立ち上がり動作では、足部を後方に引くことによって前後の体重心の移動距離が短くなり、動作が容易になることは明らかである。しかし、多くの立ち上がり動作の研究では足部位置が決定されているものが多く、初期の足部位置をどの位置に任意選択されているかに関する研究は不十分である。そこで本研究の目的は、基礎的なデータとして、座面高の異なる椅子からの立ち上がり動作分析を行い、足部位置を示す下腿前傾角の違いが座面高の高さによってどのように変化するかを明らかにすることである。【方法】対象は健常大学生19 名を対象とした(男性10 名、女性9 名、年齢19.9 ± 0.7 歳)。座面高条件は、下腿長(normal)、下腿長+5cm(high)、下腿長-5cm(low)の3 種とし、椅子から立ち上がり動作を行った。各立ち上がり動作の順序はランダムとし、それぞれ2 回ずつ、計6 回計測した。殿部の位置は、大転子部と椅子座面の前縁から1/3 の位置が一致するように設定した。足部位置は、普段の立ち上がりと同様になるように指示し、数回練習した後に計測した。計測は3 次元動作解析装置(ローカス3DMA-5000:ANIMA社製)を用いた。なお、サンプリング周波数は150Hzとした。データは、初期下腿前傾角度、最大下腿前傾角度、所要時間、前後体重心変化量を収集した。各データに対して所要時間を100%として基準化し、2 施行分の平均値を採用した。下腿前傾角度は両側のデータの平均値を採用した。統計解析は、各座面高の違いによる各データの比較を行った。得られたデータの正規性の検定、球形性検定を行い、正規性、等分散性が示されたため、反復測定分散分析を行った。その後の検定としてTukeyの多重比較検定を行い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、東北文化学園大学研究倫理審査委員会の承認を受けた後に実施した(第11-22 号)。対象者には研究に関する説明を書面および口頭にて行い、同意を得た者のみを対象とした。【結果】統計解析の結果、各座面高の違いと所要時間(high:2.36 ± 0.54、normal:2.35 ± 0.35、low:2.48 ± 0.63 秒)、前後体重心変化量(high:25.2 ± 4.7、normal:24.2 ± 5.4、low:23.8 ± 4.5cm)との間に有意差は認められなかった。初期下腿前傾角度はhigh:15.3 ± 5.5°、normal:16.1 ± 5.6°、low:18.3 ± 4.9°となり、low時の初期下腿傾斜角度が他の2 条件と比較し有意に大きかった。また、最大下腿前傾角度はhigh:20.2 ± 4.2°、normal:22.9 ± 4.2°、low:25.4 ± 4.4°となり、各群間に有意差が認められ、座面が低いほど、最大下腿前傾角度は有意に大きかった。【考察】立ち上がり動作時の足部位置は対象者の任意としていたが、低い椅子からの立ち上がり動作での初期下腿前傾角度が、他の条件よりも有意に大きくなった。このことは、対象者自らが無意識に足部位置を後方に引くことにより、立ち上がり動作を容易にしていると考えられる。角度も平均2 〜3°の違いがあり、足関節の角度としては比較的大きい変化であると思われる。しかし、足部位置を後方にすることで支持基底面の位置を近づけているにもかかわらず、前後の体重心変化量では有意差が認められなかった。これは、体重心の最大前方位置である立位姿勢終点時のばらつきがみられたためであると推察された。また、最大下腿前傾角度はlow、normal、highの順に大きかった。低い椅子からの立ち上がりでは、他の高さの椅子の時と比較し、体重心が前下方に移動し、そこから鉛直方向への移動距離が大きくなる。そのため、足関節戦略を効率よく用いて動作を滑らかに調整したことが影響したのではないかと推察した。また、その際には、膝関節や股関節においても異なる運動制御が行われたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の知見から、座面高の違いによる立ち上がり動作時の足関節角度変位の違いを提示できたことにより、理学療法場面で立ち上がり動作指導の一助となる。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680553062144
  • NII Article ID
    130004585557
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101280.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top