心臓外科手術後リハビリテーション進行における遅延因子の検討
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- 森沢 知之
- Cardiovascular Surgery Physiotherapy Network
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- 大浦 啓輔
- Cardiovascular Surgery Physiotherapy Network
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- 上坂 建太
- Cardiovascular Surgery Physiotherapy Network
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- 加藤 倫卓
- Cardiovascular Surgery Physiotherapy Network
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- 齊藤 正和
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- 櫻田 弘治
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- 澁川 武志
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- 田原 将之
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- 花房 祐輔
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- 湯口 聡
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- 高橋 哲也
- Cardiovascular Surgery Physiotherapy Network
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説明
【はじめに】手術の低侵襲化や術後管理の進捗により心臓外科手術後のリハビリテーション(術後リハビリ)は順調に進行する症例が多い。しかし、その一方で高齢者や併存疾患を持つ患者にも手術適応が拡大していることから、さまざまな要因により術後リハビリの進行が遅延する症例も一定数存在する。術後リハビリの進行に重要な役割を担う理学療法士はこれらの特徴を定期的に評価し、常に最新の傾向を臨床に適用する使命がある。それは、術後リハビリの遅延はADLや運動耐容能の回復を遅らせ、ICU滞在日数や入院期間の延長をもたらすため、術後リハビリ進行の遅延に関わる因子が明らかになれば、遅延が予測される症例に対し積極的かつ適切なリハビリ介入を行うことで、術後リハビリ進行の遅延を防ぐことができる可能性があるからである。【目的】心臓外科手術後リハビリの進行における遅延の割合および遅延理由を明らかにし、その遅延に関わる因子を検討する。順調に術後リハビリが進行した症例と遅延症例のリハビリ進行の違いを明らかにする。【方法】対象は平成24年3月までの間、全国9施設で待機的に冠動脈バイパス術、弁膜症手術、複合手術が行われた症例のうち、術前歩行が自立しており、なおかつ手術後に100m自立歩行が可能であった1850例(男性1351例、女性499例、平均年齢67.0±12.9歳)である。術式の内訳は冠動脈バイパス術552例、単弁置換・形成術593例、複合弁置換・形成術388例、冠動脈バイパス術+弁膜症手術240例、その他77例である。日本循環器学会のガイドラインに基づき、手術後8日以内に100m歩行が自立した症例を順調例、100m自立歩行に9日以上を要した症例を遅延例とし、遅延に最も関係の深いと思われる要因を7つのカテゴリー(心臓由来、呼吸器由来、中枢神経系由来、腎臓由来、創トラブル、術前からの低体力、その他)から選択した。術後リハビリ遅延に関わる因子を患者基本情報、既往歴、術前血液生化学データ、手術情報の各種データから重回帰分析を用いて検討した。さらに各遅延理由間における術後リハビリ進行の違いを多重比較検定を用いて検討した。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究実施にあたり、研究の趣旨、内容および調査結果の取り扱いを一括して厳重に管理することを含め、本人に説明し、同意を得た。本研究は兵庫医療大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号第12029号)。【結果】遅延例は10.4%(193例)であり、内訳は心臓由来4.7%(87例)、術前からの低体力2.6%(48例)、腎臓由来0.6%(12例)、呼吸器由来および中枢神経系由来がいずれも0.5%(10例)、創トラブルが0.1%(3例)、その他が1.2%(23例)であった。その他に含まれる遅延理由は精神障害、消化器障害、骨関節障害などであった。重回帰分析の結果、心臓由来の遅延には年齢、性別(女性)、APおよびCOPDの既往、術前eGFR値、手術時間と術中出血量が抽出された。術前からの低体力では年齢、CKDおよび運動器疾患の既往、術前HbA1C値、HDL値、Alb値、術中出血量、術後水分バランスが抽出され、腎臓由来ではCKDおよびCVAの既往、手術時間、人工呼吸器装着時間が抽出された。呼吸器由来では年齢、COPDおよびHTの既往、術中出血量と術後水分バランスが抽出された。順調例と遅延理由別にリハビリ進行を比較すると、順調例の端座位開始日、立位開始日、歩行開始日、100m歩行自立日はそれぞれ1.4±0.9日、1.5±1.0日、2.0±1.2日、3.8±1.9日であるのに対し、心臓由来例では4.1±4.4日、5.2±6.1日、6.9±6.5日、14.7±9.0日であった。術前からの低体力例は2.9±2.3日、3.3±2.4日、4.4±2.6日、13.2±4.4日、腎臓由来例では8.6±3.9日、8.8±3.7日、10.5±4.2日、15.8±6.1日であった。遅延理由別の術後リハビリ進行は端座位開始日、立位開始日、歩行開始日は腎臓由来例が他の遅延例に比べて有意に遅いものの、100m歩行自立日ではいずれの遅延理由間に有意な差は認められなかった。【考察】術後リハビリ進行の遅延理由には心臓由来と術前からの低体力が多く関係していた。いずれの遅延理由にも年齢が関与しており、高齢患者では手術後にリハビリ進行が遅延することが予測されることから注意が必要と思われた。特に、腎臓由来例では他の遅延理由に比べリハビリ進行が遅れる傾向にあることから、過度にリハビリ進行が遅延しないように注意が必要と思われた。【理学療法学研究としての意義】現在、全国的に心臓外科手術件数は増加傾向にあり、今後も理学療法士を中心とした術後リハビリの進行が期待されている。今回、多施設間共同研究で新たに心臓外科手術後リハビリ進行の遅延に関わる因子を示したことは、リハビリ進行時の臨床的意思決定の一助になるものと考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101365-48101365, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680553439616
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- NII論文ID
- 130004585625
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可