視覚障害に対する身体運動学的アプローチの効果を考える

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抄録

【はじめに】ギブソンは動物の知覚システムとして,環境への注意のモードという視点から5つのシステムがあると提唱している。視覚システムは姿勢の変化や移動を知覚する。交通事故による頭部外傷後の2重視ため,活動制限を生じた症例が入谷式足底板(以下,足底板)により症状改善した。治療効果と持続した経緯を考え報告する。【症例】48歳 男性 会社員軽自動車運転中に普通車と接触,田んぼへ転落し受傷(シートベルト着用)。救急車にて急性期病院へ搬送,脳外科,整形外科の加療及び脳血管リハを受ける。受傷後約1年後,左肩関節拘縮改善を目的に当院受診。疾患名・障害名:左肩関節拘縮,脳挫傷後右片麻痺,右外傷性肩関節脱臼,右足関節内果・腓骨骨折(手術療法),右第4中手骨骨折(保存療法)。主訴:屋外歩行時に人とすれ違うのが怖い。段差が怖い。二重視により左目を閉じたほうが見やすい。左肩が挙上出来ない。動作:段差から降りる際,動作が止まり体幹を回旋しながら下肢をおろす。ボールを投げると身体が一時後退してから捕球する。立位姿勢は頸部左回旋,右肩甲帯外転拳上。立位時筋緊張は右胸鎖乳頭筋,大胸筋,広背筋,左右上腕二頭筋に高緊張を認めた。関節可動域テストは立位時左肩関節屈曲100°,右足関節背屈5°以外の問題はなかった。立位姿勢の矢状面は,上下半身ともに左後方偏位,歩行は直進性を欠き本人にも自覚があった。頸部・体幹の筋緊張を整え維持するために足底板評価を行った。足底板直接評価中の裸足歩行で直進性の向上が見られた。姿勢筋緊張の改善及び,身体運動改善を目的に毎日履く靴に足底板を処方した。【結果】歩行時に人とすれ違う恐怖心がなくなり屋外歩行可能。(街中を30分以上)段差から降りる際の動作がスムーズになる。ボールを迎えて捕ることが可能になる。立位時筋緊張の左右差も同レベルとなり,立位時左肩屈曲も改善した。【考察】足底板の特徴は,身体運動を無意識下にコントロールしメカニカルストレスを減ずることにある。症例は二重視により左眼を閉眼させ,右眼のみに集中した生活となった事が過剰な姿勢筋緊張を形成した。姿勢筋緊張は自己定位に重要な情報である。自己定位困難な状態が外部環境への適合障害を生み,活動制限を生じさせたと考えた。足底板を使用する事により右眼で楽に見る姿勢と,過剰な筋緊張が生じない姿勢を作り出した。受傷後の経過が長く外眼筋筋切除の予定もされていた状態であった。足底板使用後から動作時の恐怖心が改善したことから,知覚システムの協調障害に対しても足底板は有効であると考える。足底板の姿勢コントロール効果により自己定位の形成をした。更に全身的な探索活動での知覚行為循環により症状を改善させたと考える。

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