東日本大震災被災地住民に対するロコチェックとCS-30

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  • ―地域在住者との比較と一年後の再評価報告―

抄録

【はじめに,目的】深部静脈血栓症(DVT)は被災地住民の健康問題の一つである。東日本大震災直後から当院神経内科医師等によるDVT検診(検診)が行われており,2013年4月からは我々理学療法士も同行,DVT・生活不活発病対策の運動指導を行っている。我々は運動指導と共に運動器の評価としてロコモーションチェック(ロコチェック)と30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)を施行し,第32回東北理学療法学術大会にて報告した。今回,約一年後に再評価する機会を得たので,先の報告と併せ考察を加えて報告する。【方法】岩手県の被災市町村のうち7市町村において,仮設住宅近隣の集会所等で行われた検診で評価を施行した。対象は2013年4月から2014年1月に検診を受けた被災地住民1009名(男性218名,女性791名,年齢70.3±10.1歳,BMI24.2±3.8kg/m2)である。このうち初回評価ではロコチェックは997名に,CS-30は803名に実施した。コントロール群は当院の健康講座を受講した地域在住者342名(男性106名,女性236名,年齢72.3±10.7歳,BMI22.9±3.0 kg/m2)であり,ロコチェックは全員に,CS-30は183名に実施した。ロコチェック1項目以上該当者を陽性者とし,被災地住民,地域在住者各々を「全体」「65歳以上」「65歳未満」「男性」「女性」に分け,陽性率・項目別陽性率の比較にはFisher's exact testを,陽性項目数・CS-30の比較にはMann-WhitneyのU検定を,陽性項目数とCS-30の相関はSpearmanの順位相関検定を用いて検討した。2014年4月から6月に行われた検診で,初回評価から一年後の同月に再評価したのは394名(男性74名,女性320名,年齢71.3±8.3歳,BMI24.3±3.8kg/m2)である。陽性率・項目別陽性率の昨年度との比較にはFisher's exact testを,陽性項目数・CS-30の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を行い,有意差を得た項目は再度コントロール群との比較を行った(何れも有意水準5%)。【結果】初回評価において,陽性率は「全体」「65歳以上」「女性」で被災地住民が高かった(何れもp<0.0001)。項目別陽性率は「全体」で「片脚立ちで靴下がはけない(p=0.0293)」「家の中での躓き(p=0.0082)」「階段の上りに手すりが必要(p<0.0001)」「青信号を渡りきれない(p=0.0333)」「2kgの買い物が困難(p=0.0034)」「家のやや重い仕事が困難(p=0.0024)」の6項目で被災地住民が高かった。「65歳以上」も同様の結果を得た。「65歳未満」は「階段を上るのに手すりが必要」のみ被災地住民が高かった(p<0.0001)。「男性」は全ての項目で有意差を認めず「女性」は「片脚立ちで靴下がはけない(p=0.0077)」「家の中での躓き(p=0.0047)」「階段の上りに手すりが必要(p<0.0001)」「2kgの買い物が困難(p=0.0029)」「家のやや重い仕事が困難(p=0.0065)」の5項目で被災地住民が高かった。陽性項目数は「全体」「65歳以上」「65歳未満」「女性」で被災地住民が多く,CS-30は全ての群で被災地住民が低かった。陽性項目数とCS-30の相関は,被災地住民のみ全ての群に負の相関が得られた。再評価では,陽性率,項目別陽性率,陽性項目数において有意差を得なかった。CS-30は「65歳未満」に改善傾向を認めたが(p=0.0043),この再評価結果と地域在住者との比較では初回同様,被災地住民が有意に低かった(p=0.0001)。陽性項目数とCS-30の相関は初回評価と同様の結果を得た。【考察】先の報告で,項目別陽性率において「全体」「65歳以上」で7項目中6項目に有意差が認められ,被災地住民の運動器機能が全般的に低下している事を述べたが,再評価においても依然として地域在住者と差異があり,被災地住民の運動器機能の低下は継続していることが判った。また,「男性」では有意差を得ず「女性」で7項目中5項目に有意差を得た事から,被災地での生活環境の変化は,より女性に影響している事が推察され,加えて比較的若い世代においても下肢筋力・バランス能力が低下している事が示唆されたが,この傾向も継続していた。陽性項目数とCS-30の相関も,初回評価と同様に被災地住民で緩やかな負の相関が得られ,日常生活動作における下肢筋力の影響が示唆された。【まとめ】検診受診者の被災地住民に対しロコチェックとCS-30を施行した結果,年齢では「65歳以上」に,性別では「女性」に運動器の機能低下を認め,一年後の再評価においてもその傾向は継続していた。被災地住民の運動器脆弱化の予防,改善には,年齢や性別における差異を捉えた運動指導が必要である。【理学療法学研究としての意義】被災地住民は生活環境の変化から運動器の脆弱化を起こしやすい。被災地住民の運動器機能の維持・改善を図り,日常生活を活発化させる必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680553701248
  • NII論文ID
    130005416600
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1539
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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