運動ニューロンの糖尿病耐性は支配する筋の性質によって異なる

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抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>糖尿病による筋障害は速筋と遅筋でその病態が異なることが知られているが,その原因については不明な点も多い。そこで我々は,筋機能に影響を及ぼす,運動ニューロンの障害を観察した結果,病期12週では遅筋を支配する運動ニューロンのみ細胞数が減少することを明らかにした。しかし,糖尿病患者は非常に長い罹病期間を有するため,より長い病期でも運動ニューロンの障害を検討する必要がある。そこで,本研究では,病期12週に加え,より病期の長い病期22週でも運動ニューロンの解析を行うこととした。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>実験動物は13週齢でStreptozotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させたWistarラット8匹を糖尿病群とし,その半数を病期12週,残りの半数を病期22週で実験に用いた。対照群は同週齢のWistarラット8匹とした。それぞれのラットの左後肢の内側腓腹筋を支配する神経枝と,右後肢のヒラメ筋を支配する神経枝をDextran-Texas Red溶液に1時間暴露して,術創を閉じた。2週間の生存期間の後,深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒド溶液にて灌流固定を行い,腰髄以下の脊髄を摘出した。次に,脊髄から80μmの連続切片を作成し,蛍光顕微鏡下にて運動ニューロンを観察後,Image Jを用いて運動ニューロン数と細胞体の横断面積を計測した。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>病期12週では内側腓腹筋(速筋)を支配する運動ニューロンの数が対照群と同程度であったのに対し,ヒラメ筋(遅筋)を支配する運動ニューロンの数が糖尿病群で有意に減少した(p<0.05)。一方,病期22週では内側腓腹筋を支配する運動ニューロンでも糖尿病群で総数の減少が観察された(p<0.05)。また,運動ニューロンの細胞体横断面積は,両筋を支配する運動ニューロンともに糖尿病群で減少する傾向が観察されたが,有意差は認められなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本研究結果から,糖尿病では速筋を支配する運動ニューロンに比べ,遅筋を支配する運動ニューロンがより早期から減少し,運動ニューロンによって細胞脱落の生じる時期が異なることが明らかとなった。両運動ニューロンの軸索の長さや細胞体の大きさに差が無いため,支配する筋タイプの違いが高血糖への耐性に影響していると考えられる。一般的に遅筋は単関節筋に多く,姿勢維持や抗重力活動において重要な役割を担っているが,本研究結果は遅筋を支配する運動ニューロンが想定されているよりも早期から脱落することを示唆するものであり,糖尿病患者において観察されるバランス能力の低下などのメカニズムの一部を説明し得るものである。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680553999104
  • NII論文ID
    130005609387
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.1441
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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