円背姿勢は立位姿勢制御能に影響を及ぼすのか?

DOI

抄録

【はじめに,目的】高齢者の6割は円背姿勢になるとも言われ,加齢変性によって生じる姿勢変化であり,また加齢とともに高齢者の転倒率が高くなることが知られている。一般に円背姿勢はアライメントの変化として解釈され,転倒リスクは神経・筋の退行性変性と関連づけられ別個に考えられることが多い。しかし脊柱後弯者は統計学的に転倒リスクが高いことが分かっており,円背姿勢は立位姿勢制御に影響を及ぼし得ると予想されるが,その関係性は明らかでない。本研究の目的は,円背姿勢それ自体が,立位姿勢制御能に影響を及ぼすかを明らかにすることである。【方法】対象は健常成人10名(年齢21.1±0.7歳)とした。計測は重心動揺計(ユニメック社製)上にて30秒間の静止立位保持を行い,足圧中心(COP)動揺を計測した。自然立位にて計測した後,高齢者疑似体験に用いられる円背装具(高研社製)を装着した状態で再度計測した。装具適応のため装着後15分間自由速度にて歩行させた後に計測した。計測は各条件で開眼と閉眼にて各4回行った。姿勢制御能を評価するためにstabilogram diffusion analysis(SDA法)を用いた。SDA法はCOPの軌跡を扱い,様々な時間間隔でのCOP変位量を算出してその二乗平均を求め,時間間隔を横軸,変位量を縦軸にしてプロットしグラフを描く。グラフから短時間領域,長時間領域それぞれの傾き(拡散係数DsおよびDl)とその境界点座標(⊿t,⊿r2を算出し評価指標とするものである。SDA法はCOP動態から姿勢制御方略を分析できる解析法である。統計解析はこれらの指標を自然立位と装具装着立位で対応のあるt検定,もしくはウィルコクソンの符号付順位和検定を行った。【結果】円背装具装着により開眼条件でDs,Dlともに有意に増加した(p<0.01)。また境界点までの時間(⊿t)は,開閉眼条件ともに有意に長くなった(p<0.05)。境界点における⊿r2は開閉眼条件ともに有意に増加した(p<0.05)。【結論】DsとDlはそれぞれ,フィードフォワード系,フィードバック系の制御を表すとされており,高値であるほど不安定であると解釈される。円背装具装着によってDsの傾きの増加と⊿r2の増加を認めたが,これはフィードフォワード系においてCOPが不安定な動揺をしていたこと示す。さらに境界点までの⊿tが長くなったことは,フィードバック系への切り替えの遅延を表し,COPが不安定にふるまう時間が長かったことを表す。また,Dlの傾きが増大したことは,十分なフィードバック制御が働いていなかったことを示す。これらの指標の増大から円背姿勢が姿勢不安定性につながる一因となり得ることが示唆された。その要因に関して,先行研究にて胸椎後弯増強は頭部動揺を増大させ,視覚・前庭系に影響を与えることなどが報告されているが,具体的にどのような要素が姿勢不安定性につながるかは,三次元動作解析装置も同期しての追加検証が必要である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680554891904
  • NII論文ID
    130005417530
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0600
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ