Light touchと手すり把持が立位時の前脛骨筋とヒラメ筋の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響の相違

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抄録

<p>【目的】立位保持中の姿勢動揺は固定点へ指先で軽く触れること(Light touch:LT)により減少する。この姿勢動揺の減少は指先接触による力学的支持ではなく,求心性情報に基づく脊髄より上位レベルでの神経制御に起因するとされているが,未だ十分には解明されていない。また,手すりを把持し力学的に支持した場合との相違は明らかではない。そこで,本研究は経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation:TMS)による運動誘発電位(Motor evoked potential:MEP)を指標に,LT中の前脛骨筋(Tibialis anterior:TA)とヒラメ筋(Soleus:SOL)の皮質脊髄路の興奮性変化を検討した。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は健常若年者10人であった。課題は,1)固定点への右示指の接触なし(No touch:NT),2)固定点への右示指のLT(接触圧1N以下),3)固定点の把持(Hand grasping:HG)の3条件における開眼両脚立位保持とした。被験筋は右側のTAおよびSOLとし,TMSには磁気刺激装置とダブルコーンコイルを使用した。刺激強度はNT条件でTAとSOLのいずれからもMEPが視覚的に確認できるTMSの最弱強度の120%とし,MEP振幅値を測定した。さらに,刺激前100msの背景筋活動量を算出した。また,床反力計を用いて,足圧中心(Center of pressure:COP)座標から刺激前10秒間の前後方向及び左右方向の2乗平均平方根(root mean square:RMS)を算出した。</p><p></p><p></p><p>【結果】TAのMEP振幅値はLT条件ではNT条件と比較して有意に高値を示し,HG条件とNT条件で有意な差は認められなかった。一方,SOLではLT条件とNT条件で有意な差は認められなかったが,HG条件ではNT条件と比較して有意に低値を示した。背景筋活動量は,TAでは3条件のいずれでも筋活動は認められず,SOLでは3条件間で有意な差はなかった。COPのRMSは前後方向,左右方向ともにNT条件と比較して,LT条件,HG条件で有意に低値を示した。</p><p></p><p></p><p>【結論】TAのMEP振幅値は立位姿勢の不安定さに対応して調整されるが,本研究では姿勢動揺の減少するLT条件で,TAのMEP振幅値は増大した。指先からの求心性情報は感度の高い身体動揺のフィードバック情報であり,そのフィードバックへの応答性を高め,予期せぬ外乱に対し,立位姿勢の安定化を図るため,TAの皮質脊髄路の興奮性が増大した結果であると考えられた。一方,HG条件では外乱に対して上肢の力学的支持が利用できるため,TAの皮質脊髄路の興奮性を増大させる必要はなかったと考えられた。SOLは静止立位中に持続的に筋活動が生じ,この活動は脊髄レベルで制御され,LTによる求心性情報は皮質を介するため,LT条件で皮質脊髄路の興奮性は増大せず,さらに,HG条件では力学的支持によって神経制御への要求が低下したため,皮質脊髄路の興奮性が低下したと考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680555079936
  • NII論文ID
    130005608505
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.0488
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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