陸上歩行と同強度の水中歩行が呼吸筋疲労に与える影響

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抄録

【はじめに,目的】近年,水中運動は水の性質により関節にかかる負担を軽減できることや,筋力の向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。水中運動は,水深によっては吸気時には抵抗が加わり吸気筋力を増強させる有効な手段となる可能性が考えられ,我々は第50回日本理学療法学術大会にて水深が深くなるほど吸気筋負荷呼吸後の吸気筋疲労が増大することについて報告した。しかし,水中で吸気筋負荷呼吸を実施することは実用的ではないため,今回我々は水中歩行に着目し,陸上歩行と同強度の水中歩行が呼吸筋疲労に与える影響について検討したので報告する。【方法】被験者は健常成人男性11名(年齢28.2±5.4歳,身長168.3±3.8cm,体重66.7±4.9kg)とした。まず,陸上トレッドミルによる運動負荷試験をBruce protocolにて実施し,最大酸素摂取量(VO2max)を求めた。次に陸上トレッドミル歩行(Land walking:LW)と水中トレッドミル歩行(Water walking:WW)をランダムに実施した。両歩行中は呼気ガス分析装置を装着し,運動強度が60%VO2maxになるように常に速度を調節し,40分間歩行した。尚,WWでは,水着,水中歩行専用靴を着用し,水温は32℃,水深は第4肋間となるよう調節した。測定項目は呼吸筋力(吸気口腔内圧:PImax,呼気口腔内圧:PEmax)を歩行開始前および歩行直後に陸上安静座位にて測定し,歩行前を基準として歩行後の変化率を算出した。また酸素摂取量,心拍数,呼吸回数,一回換気量は歩行中1分ごとに記録した。統計学的処理として,歩行条件内の歩行前と歩行後の各パラメータの比較および歩行条件間の変化率の比較は対応のあるt検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。【結果】WWおよびLW後のPImaxは歩行前と比べて有意に減少した。PEmaxにおいては,WW後は歩行前と比べて有意に低下したが,LWでは有意な差を認めなかった。また変化率の比較では,WWのPImax低下率はLWと比べて有意に大きく(WW:13.3±7.2%,LW:4.1±2.2%,p<0.01),PEmax変化率は両歩行間で差はなかった。酸素摂取量,心拍数,呼吸回数,一回換気量は両歩行間で有意な差はなかった。【結論】今回の結果より呼吸回数や一回換気量は歩行条件間で有意差はなく,呼吸様式の違いが呼吸筋疲労の原因とは考え難い。歩行前と比べWW後のPImaxおよびPEmaxは有意に低下し,さらにPImax低下率もLWと比べ大きいことから,水中では胸壁に水圧がかかり圧迫された胸郭を広げるためには吸気時に吸気筋力が必要となり,吸気筋に疲労が生じたと考えられた。また呼気筋においては,水中では姿勢を維持するために腹筋群を使用するとされることから,40分間の水中歩行において呼気筋に疲労が生じたと考えられる。これらのことから,陸上歩行と同強度の水中歩行は呼吸筋疲労を生じることから,水中歩行は呼吸筋力を増強させる有効的な手段となり得ると考えられた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680556240768
  • NII論文ID
    130005418631
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.1619
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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