偽腔開存型のStanford A型急性大動脈解離を発症後,保存的治療を行った症例に対するリハビリテーションの一考察

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抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>Stanford A型急性大動脈解離(A型解離)は緊急手術適応であり,大動脈解離診療ガイドライン(ガイドライン)におけるリハビリテーション(リハ)コースの適応は偽腔閉塞型とされ,偽腔開存型は除外基準に相当する。過去のリハ報告においては,偽腔開存型A型解離の保存的治療例は稀である。今回,偽腔開存型A型解離で保存的治療を選択し,理学療法を実施した症例を報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>症例は70歳台女性,自転車走行中に嘔吐を伴う突然の背部痛を主訴に救急搬送,A型解離と診断され入院となった。高血圧と狭心症,脂質異常症を有していた。D-dimer99.7ng/ml,WBC4670/μl,CRP<0.05mg/dl,Hb10.7g/dl,Ht34.1%,EF80%であった。造影CTにて大動脈弁直上から腎動脈下部腹部大動脈に渡る偽腔開存型解離を認め,最大径は55.6mmであった。手術適応であったが,一切の輸血拒否があり保存的治療となった。リハ中の運動負荷に伴う急変の可能性を医師から説明し,本人と家族の了承のもと,第18病日に理学療法が開始となった。ガイドラインの標準リハコースを参考に,医師の指示のもとリハを進めた。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>症例は疾患と治療の理解と受容があり,穏やかな気質であった。第18病日にベッドアップ30°,第21病日にベッドアップ70°とした。第22病日のCTにて大動脈に拡大がないことを確認し,第24病日に端座位を10分実施するも,血圧変動はないものの意識レベル低下を認めた。そのため,その後は標準リハコースよりも早くならないスケジュールで,負荷漸増を都度検討した。第28病日に車椅子乗車を実施した。第29病日のCTにて大動脈に拡大がないことを確認し,第31病日に立位開始するも,起立性低血圧を認め,また,心房細動や心室性期外収縮が増え加療を要した。加えて,年末年始の希望外泊があったため歩行開始は遅れた。第45病日より室内歩行,第46病日に15m歩行,第49病日に自宅の玄関を想定した段差昇降を実施した。第55病日に自宅退院に至った。いずれも収縮期血圧120mmHg以下,心拍数80回/分以下でリハを進め,負荷漸増の際には急変の可能性を説明し,リハを進める意思を確認した。留意事項として,緊急処置体制が充足している平日に,担当理学療法士が負荷を漸増するようにした。また,面会者が多く,精神状態の変動を極力避けるため,リハ中の来客は避けて頂くように家族に協力頂いた。その後,発症から約650日経過した時点にて自宅内日常生活は自立,屋外は主に歩行で移動されている。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>偽腔開存型A型解離であったが,端座位まではガイドラインの標準リハプログラムを参考に進め,以降は日数を要したものの,負荷ごとの評価とCT評価に基づいて進めることで,重篤なイベント発生がなく,リハを実施することができた。また,リハ実施に伴う急変の可能性を本人,家族と共有することや,極力血圧に変動を及ぼさないための精神面への配慮が重要と考えられた。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680556508928
  • NII論文ID
    130005609190
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.1188
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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