家庭科教育と幼児教育の接点

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  • Contact of Home Economics Education and Early Childhood Care and Education
  • 史的発達論の視点から

抄録

<br>【問題および目的】<br> 近年、中高生の育児性ないしは養護性を育てる上で幼稚園・保育園を訪問し、かかわることによって乳幼児理解を進める教育が盛んになってきている。  それも大切であるが、家庭科教育と乳幼児教育は、教育内容そのものの点において深いつながりがあることが推察される。報告者は以前からこのことについて考えていたが、何らかの実証的研究をしてから報告するほうが良いと考え、構想を温めてきていた。しかし、昨年の日本家政学会のシンポジウム「生きる力を育むために―家政学からの提言」を聴きつつ、まず序説として報告しておく必要性を痛感した。それは、乳幼児から小・中高等学校、そして高齢者まで生涯にわたっての「生きる力」を問題にしており、家庭科教育からの視点が重視されていたのであるが、そこに系統発達と関わらせた史的人間理解の視点が入ると各世代のかかわりから一層生涯発達と各世代のかかわり(世代間交流)から「生きる力」の意味が深まったのではないかと考えたからである。<br>  そこでここでは、まず、幼児教育と家庭科教育の両面に接することが出来た報告者の立場から、家庭科教育と幼児教育の内容の接点に関して、その本質について考察する。<br> 【方法】<br> 本報告は上記のように「序説」としての構想・視点が主であり、方法とはいっても実証的研究の手法を取るのではなく、いわば史的発達論的に考察するものである。史的発達論とは、個体発達だけを切り離すのではなく系統発達と関わり、かつ時代と世代との関連で、人間を長いスパンの時系列の中で相対化してみるとらえ方である。<br> 【結果】<br> 人類の文化遺産を系統的に子どもたちに伝えつつ子どもが創造的に学べるように支えていくのが教科教育であるとするなら、家庭科教育は人類の築いてきた生活の理念・方法を伝えつつ暮らしを創造してきく中核を学ぶ教科であるといえる。<br>  人類史と個の発達は極めてパラドキシカルである。遊びと労働の関連を考えたとき、人類史においてははじめに労働があり、後に遊びが誕生する。個体発達ではどうか、はじめに、遊びがあり、その後に労働を担うようになる。<br>  家庭科が主として対象とする生活の技術もまた、人類史においては、はじめに生活の必要とする実践があった。子ども期が「誕生」してから生活と労働を遊びの中に取り入れる「ままごと」が発生する。しかし、個体発達においても、大人と共に行う日々の暮らしは存在するが、意図的な技術の学びより前に、日々の暮らしの再体験としての遊びがあり、長じてから意識的な学習がなされる。<br>  無意図的な生活と意識的な生活学習の間に幼児期の遊びがある。そう考えてくると、幼児期の遊びは、子どもという幼い人間に理解された人類の知恵の集約であり、子どもを通して把握されたすべての科学と芸術の根元があると考えられる。中でも家庭科は生活そのものの科学を中心とする教科であるため、生活再現のごっこ遊びに集約されるものが多い。おままごと(おまんまごっこ)=食生活、着せ替えごっこ=衣生活、おうちごっこ=住生活、家族ごっこ=家族生活、お買い物ごっこ・お店やごっこ=消費生活・マーケッティング、電車ごっこ=移動・交通生活、お医者さんごっこ(患者・医者・パラメディカル)=医療・健康生活、等々、そして総合的な生活としての劇遊びへとたどり着く。<br>  こうした遊びの経験は、一つ一つが覚えられているものではなくとも、自然発生的に体で覚えており、人と人、人と物で作る生活の中での微妙な感情の機微も含めて学んでいる。そこに家庭科教育の基礎がある。遊びが主導的活動となる幼児期から、小学校低学年における現実生活の実践を経て、小学5年の家庭科教育にいたる過程についても今後この視点で検討していきたい。中高生の場合は、単なる乳幼児との関わりだけでなく、家庭科での様々な学びを基に新たに乳幼児の遊びを考察するとき、先達から学んだものとこれから新らしい時代を作る乳幼児との接点を人類史的に深く考察でき、家庭科の学習から未来への展望を見出すという意味での「生きる力」への道が拓けるものと思われる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680568671872
  • NII論文ID
    130006960961
  • DOI
    10.11549/jhee.49.0.23.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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