調理実習を学ぶことの意義

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書誌事項

タイトル別名
  • The idea of students' learning in cooking class
  • through the analysis and discussion of cooking classes
  • 調理実習の分析・考察から

抄録

<B>目的<B>:<br>近年、総合学習等で調理して食べる授業が広がる一方で、家庭科の調理実習では手先や身体を使うのが苦手な生徒、少しの失敗で気力を失う生徒の増加という問題状況がある。そこで本研究では学校教育の現状や生徒の実態を通して、家庭科で調理実習を学ぶ意義を明らかにすることを目的とする。本研究は次の3つの研究からなる。1)筆者らが実際に行っている調理実習の目標を分析し、実際にはどのような設定理由により、実習が行われているかを明らかにする。2) 高校教科書に掲載されている調理実習の題材を抽出し、その特徴と傾向を明らかにする。3) 年間を通した調理実習計画の事例を目標設定の視点から分析し、1)2)の結果と併せて調理実習の提案を行う。<BR><B>方法<B>:研究_丸1__から__丸3_の方法は次のとおりである。_丸1_ 各メンバーが自校で実践している調理実習において目標としていること、目標設定の理由を題材ごとに書き出しデータ化して分析する。_丸2_ 高校教科書19冊(家庭総合8冊家庭基礎10冊生活技術1冊)に掲載されている調理実習題材を、ねらい、使用食材、調理方法、献立などについて分析する。_丸3_ _丸1_で分析した調理実習事例のうち、年間6回を通して自立を目指して計画されている一例を対象として、題材の選定、配列、設定目標、について相互の関連及び生徒の実態との関連について分析し、調理実習の目標設定や題材選定について明らかにした上で、理想とする調理実習について考察する。<BR><B>結果と考察<B>:_丸1_筆者らが実践している調理実習の目標は、実習全体の基盤になる目標と個々の実習目標との二層で示されることがわかった。つまり、食の自立に向け、理論と体験を結びつけた応用力の育成と個々の調理技術の習得を同時に目指しているのである。したがって、各回の調理実習を個別に捉えるのではなく、年間を通して意味のある授業計画が必要であるといえる。_丸2_教科書に掲載されている調理実習のねらいは「寒天とゼラチンの扱い方」のようにhow toの形で書かれているものが多く見られた。とくに和風だしのとり方は全教科書にあり、日本の食文化について学ぶことも意図されている。ただし、「日本型食生活を考えよう」といった食生活について考えさせる調理実習は少なく、調理法についても若い人の好む揚げ物や、簡便といわれる電子レンジの使用も多くはない。_丸3_対象事例の分析結果からは、6回の調理実習(1、ご飯・豚汁 2.ハンハ゛ーク゛・ハ゜スタ 3.麻婆豆腐・粟米湯・涼拌三絲・ご飯 4.フ゜リン・サフ゜リメント飲料・マヨネース゛・マシュマロ 5.自由献立)が題材の配列及び学習を通した生徒の成長の視点から考えられていることがわかった。すなわち、生徒は、1_から_3で調理をすることへの違和感をなくし、美味しく作りたいという意欲を持つようになり、人間関係も変化する。4_から_5では自らの食の問題を社会的視点から考えるようになる。6で食生活全体を自身の発達の関連から総合的に捉え、食を通じて生活の自立を目指すようになる。対象事例では、調理実習が単に技術の習得や調理科学的な理解を目指すものではなく、生活を体験し成長させる方法として位置づけられている。 実際の調理実習では、教師は生徒が「何かを学んでくれるはずだ」という期待をもって、作って食べることだけを目標にすることも多い。しかし、教師が二層の目標をはっきりと意識し、全体を見通して生徒の生活実態に応じた実習を行うことで、二層の目標が生徒の中で有機的につながっていくと考えられる。ここに家庭科の調理実習の意義があるのではないだろうか。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680568767488
  • NII論文ID
    130006961077
  • DOI
    10.11549/jhee.48.0.39.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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