近代の在来産業研究における視座

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タイトル別名
  • A viewpoint on the study of modern indigenous industry

抄録

織物業については地理学のみならずさまざまな分野から研究が進められてきた。地理学における織物業研究は立地論的関心から始まり,主として分業形態など産地内の生産構造や産地の存立基盤に注目を寄せてきた。しかし経済史学の影響をうけながらも,地理学にあって近代の織物業は現況に至る一過程として認識されていた。 のちに経済史的視点の導入が進んだが,資料的制約もあって幕末から近代にかけての農家副業としての展開に注目することが少なかった。また生産者の個別事情に基づく経営動向を論じる研究はほとんどなかった。 経済史学にあって織物業は,主に「厳マニュ論争」の中で,史料の詳細な分析によって個別生産者の経営実態を明らかにし,多くの実証事例を挙げてきた。ただしここでは「マニュファクチュア化」の検証に主眼がおかれた。 しかし明治期の官製統計の分析が進むと,工業生産における小規模経営の数量的な把握が行われ,さらに小規模経営が近代日本の経済発展において重要な役割を果たしたとする「在来産業論」が登場した。その理念を近代以前にも適用して幕末以降の展開を「工業化」への局面という単線的な変容に基づかない見解もあらわれている。このような視点は,機業地の基盤を農村の低賃金余剰労働力に求める従来の見解に対して,生産者の意思決定に注目するものといえる。 しかしこのような視座はロシアのチャヤノフによって早くに提示されている。彼は小農における家族経済の生産行動や決定プロセスを検討したが,これをうけて,農家の可変的な消費力・労働力構造と弾力的な就業状況に関心が向けられている。このような視座は地理学でも有益と考える。 本発表では,在来産業研究の動向や「プロト工業化」研究の成果などもあわせて,織物業に関する経済史学における視座の整理を試み,その地理学への導入について考えたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680569345024
  • NII論文ID
    130004596591
  • DOI
    10.11518/hgeog.2003.0.7.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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