高等学校家庭科における被服学習に関する一考察

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  • -アメリカと我が国の教科書記述の構造分析を手がかりとして-

抄録

1.目的 我が国の家庭科は、「家庭生活を営む力を育成することを通して、学習者の人間形成を図る」という目的で学校教育に位置付いている。これから考えるならば、被服学習は、家庭生活の中の“衣生活を営む力”を育成することを通して“被服でしかできない人間形成”を図るという役割を持って家庭科に位置付けられているといえる。しかし、平成12年版指導要領に示された高等学校普通教科家庭科の3科目における被服学習は、従来のそれらに比して位置付け・内容共に不安定なものとなっている。 本研究では、家政学の知識の系統に基づいて組織された現代アメリカ中等学校段階の家庭科教科書で、被服学習の位置付けの異なるSkills for Living(1997)(以下、S.L.と記す)、Contemporary Living (1995)(以下、C.L.と記す)と、平成12年版指導要領に準拠した我が国の高等学校教科書『家庭基礎』(以下、基礎と記す)、『家庭総合』(以下、総合と記す)、『生活技術』(以下、技術と記す)を、2に示す方法で検討し、家庭科における被服学習に関する示唆を得ることを目的とした。  <br>2. 方法 <br>(1)S.L.、C.L.及び基礎、総合、技術の分析方法 ?家庭科の全体構成及びそこでの被服学習の位置付けを捉える。 ?池野範男氏の分析方法1)により、教科書の被服学習に関する記述を分析し、その内容構造を明らかにする。<br>(2)(1)の結果を比較し、家庭科における被服学習の位置付け・目標・内容構造・内容編成を検討する。 <br>3.結果<br>(1)S.L.、C.L.の全体構成は、家政学における家庭生活の定義に基づき、“学習者”と“人”“狭義の環境”“物”との関わりを捉えた7つの単元で構成されていた。S.L.では、“生活を営む上で必要となる本質的な事柄についての学習”が目指され、その中で被服学習は、単元6「衣服の必要性」として単独で位置付けられていた。C.L.では、“現代的な視点で家庭生活を捉え、自分自身の生活を決定していくこと”が目的とされ、その中で被服学習は、単元7「家庭生活経営」第24章「家族の身体的要求の供給」の学習項目「衣決定」として衣食住と共に位置付けられていた。そのため、C.L.には、被服構成・製作に関する学習が設定されていなかった。我が国では、技術において被服学習が単独項目として設定されているが、基礎、総合では衣食住の内容がまとめられて項目が編成されている。これから、S.L.と技術、C.L.と基礎、総合の被服学習の位置付けは類似していると捉えられた。 <br>(2)S.L.、C.L.の被服学習は、個々の家庭科での位置付けに応じた“学習者と被服の関わり”を学ぶ内容が設定され、被服学習の根底となる目的とそれを具体化する方法原理で構造的に組織されていた。この内容を学習することで、「被服と関わって衣生活を営む力」を育成することを通して、「自分自身の価値観・目的を見いだすことによって自己概念を発達させる」という被服学習でしかできない人格形成を図るものとなっていた。それに対して、基礎、総合、技術では、方法(原理)のみが組織されていた。<br>(3)基礎、総合、技術は、異なった目標を有する科目であるにも関わらず、被服の学習内容の記述は3科目でほとんど違いがなく、基礎や総合は、技術の内容をまとめたものとなっていた。また、基礎には学習内容に被服構成・製作が含まれていない。さらに、技術における被服学習は、選択項目となっているため、選択されなければ学習されないという問題がある。<br>(4)以上より、普通教科家庭科として複数の科目を設けるのであれば、S.L.とC.L.にみられたように、その科目でしか目指せない家庭科の目標達成に不可欠な被服学習の位置付けと内容編成が必要であると考えられた。【引用文献】1)星村平和編著、『歴史教科書を活用したわかる授業の創造』、 明治図書、1984、pp.46~52

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680570372352
  • NII論文ID
    130006961182
  • DOI
    10.11549/jhee.46.0.54.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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