家庭科教材としてのケナフ
抄録
<目的> ケナフは近年木材に代わる紙の原料として注目され、繊維素材、食品素材としても利用されるなど、地球にやさしい植物として各方面から関心が寄せられている。教育現場においても小・中学校で栽培され、環境教育を中心に生活科や社会科、総合的な学習の時間などの教材として取り上げられている。しかし、家庭科教育での実践例はほとんどみられない。そこで、本研究ではケナフという植物の特徴を捉えて、年間を通して小学校家庭科の教材として用いることの可能性を探るとともに、ケナフの栄養価や調理特性など食教材として用いる際の基礎資料を得ることを目的とする。<br><方法> 植物としてのケナフに関する文献を収集し、ケナフの特徴を把握したうえで、小・中学校におけるケナフを用いた授業実践を収集して、成果と決題を明らかにする。次いで、ケナフを栽培して成長を観察し、成長段階に沿って小学校家庭科の教材として利用できる可能性を見極める。さらに、ケナフに期待される主な栄養素として、ビタミンC、鉄およびカルシウムを取り上げ、葉および花のビタミンC量、葉の乾燥粉末のビタミンC量、鉄およびカルシウム量を定量するとともに、乾燥粉末を用いたクッキーおよび蒸しケーキの嗜好性について官能検査を行う。<br><結果> ケナフはアオイ科ハイビスカス属の1年草であり、アフリカが原産地とされている。光合成能力に優れており、5ケ月から6ケ月の短期間で4-5メートルに成長するため、一般の植物や木に比べると急速に多くの二酸化炭素を固定化する。 <br>インターネットを活用した全国的な栽培活動である「全国発芽マップ」で平成9年度からケナフが取り上げられるようになって以降、全国の学校で栽培が急増していることが明らかになった。また、「発芽マップ」への学校種別参加校の割合では小学校が約8割を占めていた。そのほとんどは総合的な学習の時間の教材として取り上げられており、内容は栽培と観察、調理、加工(紙漉き、炭作り、工作など)、ケナフを通した環境学習、ケナフを通して地域・他校と交流するというものである。 <br>小学校家庭科でケナフを用いて1年間の学習を組み立てる可能性を検討するために、食生活(葉を利用したお浸し、蒸しケーキ ホットケーキ、クッキー、天ぷら等)、衣生活(花びらと葉のたたき染め、布・毛糸の染色、茎から繊維をとる等)、住生活(ケナフ炭の浄水・消臭効果、植物と住まい等)、家族生活(生活用品の購入、リサイクル、環境問題等)に関する教材研究を行ったところ、家庭科教材としてのケナフの利用は可能であり、子どもたちの学びも期待できる。またケナフの栄養については、生薬のビタミンC量は成長過程によって変動し、若葉と十分成育した葉でも異なるが、最大値は241mg%であり、花のビタミンC量は7mg%であった。ケナフ粉末の調製に際して、-週間の天日干しをするより、電子レンジを用いて8分間乾燥させる方がビタミンCの残存率が高かった。またこれらの粉末を添加したクッキーの官能検査で嗜好性の差はみられなかった。電子レンジで乾燥させて作ったケナフ粉末のビタミンC、鉄およびカルシウム含量はそれぞれ595mg%(生葉換算で106mg%)30.8mg%(同7.8mg%)、1,353mg%(同343mg%)と野菜類の中でも最高値を示した。ケナフ粉末を2,3,4%添加したクッキーの官能検査では、外観および総合的好みで4%添加クッキーが好まれなかったほかは有意差は認められなかった。ケナフ粉末を2%添加した蒸しケーキは、無添加の蒸しケーキと同程度に好まれた。 <br>以上、ケナフは1年草であるため1年間の学習サイクルに合致すること、葉・花・茎のすべてを有効に活用できること、子ども自身が育てるので素材を大切にすること、衣・食・住・家族の内容を同一教材で年間を通して学習することにより、生活をトータルに捉る力の育成につながることなど家庭科教材として期待できる。
収録刊行物
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- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
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日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 46 (0), 52-52, 2003
日本家庭科教育学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680570633600
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- NII論文ID
- 130006961307
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可