高等学校家庭科における社会関係資本

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タイトル別名
  • Social capital in high school home economics education
  • 授業事例の類型化と考察
  • Classification of teaching cases and discussion

抄録

【問題の所在と目的】<br> 2015年8月にとりまとめられた文部科学省教育課程企画特別部会論点整理では、「社会に開かれた教育課程」が掲げられ、学校が社会との接点を持ち、多様なつながりを保ちながら学ぶ環境になることの重要性が示されている(文部科学省 2015)。各教科での実践だけではなく、教育課程全体として地域とのつながりをもつことが重要視されている。教育課程そのものが地域とつながりを強めるということは、その教育課程をもとに構成されていく各教科も地域とのつながりを大切にしなければならないだろう。現行学習指導要領(2009年改訂)の高等学校「家庭」では、地域の生活を創造する能力や実践的な態度を育てることが目標とされている。また、近年、地域とのつながりや人と人のつながりに関連して、社会学や政治学において扱われてきた社会関係資本の概念が教育学の分野でも注目されている。ウィッティ(2004)は社会関係資本の増大や介入が教育の改善や繁栄に繋がることを論じている。さらに、ハーグリーブス(2015)はこれからの教職に求められる専門性として、教師がネットワークをつくり、その中で関係を結び、コミュニティやより広い社会の人材を活用し教育に寄与していくことの重要性を指摘している。<br> ところで家庭科は地域とのつながりを大切にし、地域と連携した実践を数多く行ってきた教科である。学校や教師は自らがもつ社会関係資本を教育の中に取り入れていくことが求められている今日、地域や社会とのつながりを生かした実践がある家庭科授業を分析することで、社会関係資本を授業に取り入れていくための新たな知見を得ることが期待される。<br> そこで、本研究では、高等学校の家庭科授業実践に着目し、社会関係資本がどのように取り入れられてきたかを分析し、授業の類型化および考察することを目的とする。<br>【研究方法】<br> 本研究では、高等学校家庭科授業における社会関係資本をゲスト・ティーチャーとし、ゲスト・ティーチャーが取り入れられた授業実践および研究論文を収集し、類型化を行い考察する。<br>【結果および考察】<br>以下のように4つに類型化することができた。<br>(1)気づきを促す専門家としてのゲスト・ティーチャー<br> 濱崎(2006)の実践において、ゲスト・ティーチャーは気づきを促す専門家として捉えられていた。生徒はゲスト・ティーチャーから話を聞くことにより、自分の意見に他者の視点を取り入れていた。相対的な視点を持つことにより、新たな気づきを得ることができていた。<br>(2)交流の対象としてのゲスト・ティーチャー<br> 鈴木(2011)の実践において、ゲスト・ティーチャーは交流の対象として捉えられていた。教師は異世代間コミュニケーションを実践するために、高齢者をゲスト・ティーチャーとして迎え、生徒に交流活動の機会を設けていた。<br>(3)学び合う存在としてのゲスト・ティーチャー<br> 桑畑ら(2005)の研究では、従来教える存在として考えられていたゲスト・ティーチャーが、生徒と共に学び合う存在としての役割を担っていることが明らかにされており、ゲスト・ティーチャーは学び合う存在として考えることができる。<br>(4)授業協同開発者としてのゲスト・ティーチャー<br> 千葉(2015)の実践では、ゲスト・ティーチャーが単に授業へ参加するだけではなく、教師と共に授業を作り、授業協同開発者としての役割を担っていた。授業を構成する段階から教師とゲスト・ティーチャーが活動を共にすることで、授業の改善や向上を図ることができていた。<br> これらの実践や研究から、ゲスト・ティーチャーは授業内容や目的により様々な役割を担っていることが分かった。しかしながら、教師がどのような経緯でゲスト・ティーチャーを授業に取り入れていたのかについては、ほとんど着目さていなかった。今後、学校教育や授業の中に社会関係資本を取り入れていくためには、授業の中身だけではなく、授業に至るまでにどのような経緯で取り入れたのか、また教師とゲスト・ティーチャーの関係性についても分析していく必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680571370240
  • NII論文ID
    130005287053
  • DOI
    10.11549/jhee.59.0_52
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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