小学校家庭科におけるコミュニケーション能力の育成

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Training Communications Skills about Community in Home Economics among Elementary School.

抄録

【目的】<br>  近年、家族や地域間の人間関係が希薄になり、児童のコミュニケーション能力の低下が問題となっている。教育現場では、教育基本法の改訂(2006)により、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成が求められた。また、PISA調査(OECD 2006)において、わが国の児童は、豊かな人間性と関連が深い自己肯定感の欠如を指摘されている。これを受け、小学校新学習指導要領総則(2008)では、すべての教育活動で、コミュニケーション能力の基盤となる言語活動の充実が謳われた。以上を踏まえ、文部科学省では、コミュニケーション能力推進会議を設置(2009)され、さまざまな取り組みがなされている。このような教育現場の中で、小学校家庭科学習指導要領(2008)では、目標に「家庭生活を大切にする心情をはぐくみ」と明記され、家族や近隣の人々とのかかわりを大切にすることにより、よりよい生活が実現できると述べられた。家庭科教育は、家族とのかかわりの中で、家庭生活をよりよくしようと工夫する能力と実践的な態度を育成することを目指している。これらは児童が家族の一員として、自覚を持つことにより培われる。家族の一員として自覚を持つためには、家族をはじめ、人とかかわる意義やよさに気付き、実践する喜びを味わいながら実感を伴って理解することが必要である。このことから、小学校家庭科において、コミュニケーション能力を育成する実践的な学習を行うことは有意義だと考えられる。<br>  そこで本研究では、児童の家族・友人や地域の人とのコミュニケーションの実態等を明らかにし、その結果を踏まえ、小学校家庭科におけるコミュニケーション能力を育成する授業の検討を行うことを目的とした。この目的に迫るために、コミュニケーションスキルである「アサーション」を取り入れた授業実践を検討する。<br><br>【方法】<br>  山梨県内小学生203名のコミュニケーション能力に関する実態調査(2012年9月~12月実施)、小学校教員対象の小学生のコミュニケーション能力に関する実態調査(2012年9月~11月実施 61名)をアンケートを用いて行った。次いで、アンケート結果を踏まえ、授業検討、授業設計を行い、甲府市立A小学校5年1組にて試験的に授業実践し、授業前後の児童の変容を検討した。<br><br>【結果及び考察】<br>  アンケート調査より小学生は概ね、家族と仲良くしていきたい、家族は温かい感じがするといった気持ちを持っており、家族や家庭生活に対して肯定的に捉えている。また、他者への理解や協調性が高いが、自己表現をすることが苦手で、特に家族へ反省する気持ち等を伝えることは得意ではないことが明らかとなった。その他、主体的な問題解決能力が低く、家族関係をよりよくしていく気持ちがあるものの、具体的な行動へと移していないといった傾向も認められている。一方、小学校教員は、児童のコミュニケーション能力不足を感じており、その要因として、他者理解や自己表現、聞く力に関する能力の欠如を感じている結果となった。また、コミュニケーション能力と家族関係や基本的な生活習慣が深く関係しているのではないかと推察された。上記のアンケート結果と先行研究より、児童のコミュニケーション能力を育成するために家庭科の授業の中で自分のまわりの人々とのかかわりを見直す必要性が挙げられた。中でも、今回は家族に焦点をあて、授業実践を実施したのち、家庭生活をよりよくするために自分にできる目標をたて継続的に取り組んだ。以上より、小学校家庭科におけるコミュニケーション能力の育成には、他者理解、自己表現、問題解決能力、自己肯定感、家族の一員としての自覚が大切であると導き出された。また、以上を育成するためには、自己や家族に対する気づき、主体的な実践等を取り入れた教育活動が効果的だと推察された。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680571437568
  • NII論文ID
    130005021658
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.99.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ