韓国・家庭科における実践的推論プロセスにもとづく授業展開の事例報告

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  • How Home Economics Education based on Practical Reasoning Process is taught in South Korea?

抄録

【目的】 大学教育における家政学分野の質保証(日本学術会議)に関する「家政学分野の参照基準」では、家政学は常に変化する研究対象に対応するという固有な視点をもち、学際的かつ実践的という独自な方法論をもつ、とされている。そのような中、家政学に固有の能力として、1)暮らしに必要な知識を自ら習得し、必要な情報を収集する能力、2)生き方、暮らし方を自主的かつ合理的に選択し、設計できる能力、3)暮らしの視点から社会問題や政策に意見を持ち、提言できる能力など、5つがあがっている(川口康裕氏・消費者庁審議官)。家庭科の学習を通してこれら能力を育成していくためには、確たるアプローチを持つことが必要である。そこで本報告では、2007年教科書改訂において家庭生活で直面する問題を解決するために「実践的推論アプローチ」(practical reasoning process)という理論枠組みを適用した授業が展開されている(鄭・多々納 2011)と指摘されている韓国の家庭科教育を視察し、この点の確認を行うことが目的である。<br>【方法】 (1)文献調査:ユ・テミョン、イ・スヒ著『実践的問題を中心とする家庭科の授業-理論と実践』(2010年、ブックコリア)を用いて実践的推論プロセスとはどのような概念か、一般的問題解決との対比で明らかにする。(2)韓国訪問:漢榮中學校の中学2年生を対象とする授業「私も主体的な消費者」(45分)を見学し、日韓の義務教育課程における家庭科教科書の内容確認や家庭科をさらに有意義な教科に育てあげていくための方向性に関する意見交換を行った(2012年9月)。<br>【結果】 (1)「実践的推論アプローチ」概念の特徴(ユ・テミョン、イ・スヒ 2010:68-89):一般的問題解決(problem solving)は、議論に参加する学生すべての問題解決過程に正解があり、その判断には科学的知識や原理が基礎になる場合が多い。これに対して実践的推論プロセスは、科学的知識や原理だけでなく、価値、文化や歴史・社会的背景を検討すること、状況を考慮すると最善の行動は異なることや多様な意見を聞く中で道理にあう最善の行動は何か、討論を通じて意見を狭めていく、といった特徴をあわせもつ。「実践的推論プロセス」には、価値を置いた目標(Valued Ends)、問題の脈絡/背景(Context)、代案と方法(Alternatives/Means)、行動の波及効果(Consequences)や行動と内省(Action/Reflection)といった要素がある、と指摘している。(2)韓国中学校での授業構成:導入部分で、中学生を取り巻く生活環境についてアイドルの歌詞や市内随所で見かける広告を通して「お金を使わそうとされている」ことへの意識喚起を行った上で、消費行動について関心を持たなくてはならない理由について内的・外的要因に分けて生徒たちに話し合いをさせてグループごとに発表させた。続いて、生徒1人1人が主体的な消費者となるための具体的な目標を考え(「浪費の神様をやっつけろ」)、発表させ、そして個人の行動が身近な地域のみならず、地球環境全体にも影響を与えることに言及して纏める(「地球は喜んでいるだろうか?」)、という展開であった。今後は、消費者教育分野において実践的推論プロセスに基づいた授業案を検討していくことが課題である。(3)著者との議論を通して:従来は「衣」「食」「住」で構成されていた内容であったが、韓国では2007年教科書から統合して家庭生活志向型の内容になったこと、技術的なことを教えるのではなく、物事の解決方法や見方を鍛えるべきであること、実践的推論プロセスには判断、批判的アプローチ、そして行動という3つの重要な柱があること、国により文化、社会環境は異なるので固有の諸事情を踏まえた内容を練ることが大事、などの示唆を得た。  <br>*本研究の一部は、新潟大学教育学部エッセンシャルズの助成を得て実施されました。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680571505152
  • NII論文ID
    130005021616
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.60.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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