男女共修をめぐる戦後の韓国と日本の教育課程改訂による高校家庭科の変遷

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タイトル別名
  • The change of Home Economics in high School according to the Revision of National Curriculum since World War2 in south Korea and Japan

説明

1.目的 戦後、韓国と日本の高等学校家庭科は数回改訂が行われ、現在の教育課程に至っている。中でも、戦後直後は男女平等の教育課程から、女子のみ履修に変更され、さらに男女平等への社会の変化に応じて、男女とともに履修する科目となったという変化の過程が共通している。本研究では、韓国と日本のこうした高等学校家庭科の男女別、男女共通の履修制度の歴史的な経緯とその社会的背景を比較分析し、現在の韓国と日本の高等学校家庭科をめぐる状況の類似性と相違を確認し、その課題を明らかにすることを目的とした。<br>2.方法 韓国の中学校及び高等学校の家庭科の男女共修にいたる歴史的な変遷とその背景については、すでに日本家庭科教育学会例会などで発表を行った。一方日本の高等学校家庭科の男女共修への変遷とその背景については多くの研究論文で明らかにされている。本報告ではこれらを用いて、韓日の高等学校家庭科の変遷とその時代的・社会的背景を分析する。<br>3.結果(1)韓国の戦後最初の第1次教育課程は1955年の教科課程の制定・公布により確立し、高等学校「実業・家政」は、男女区別なく必修として出発した。しかし、1963年改訂の第2次教育課程では、男子は「実業」を、女子は「家政」と性別に履修するように変更された。1960年代の新聞記事により、この時代の韓国では実業科目の必要性が社会で求められていたことが確認できる。すなわち性別役割分業意識が根強く残っていた韓国では、戦後復興にむけて特に男子技術者の育成に重点をおいた教育課程への変更を機に、「実業・家政」に男女別の履修制度が導入されたことが確認できた。日本の高等学校家庭科も、1947年の教育課程では男女ともに「実業(家庭)」を選択履修する男女平等な教育課程として出発したが、1956年改訂の学習指導要領では「履修させることが望ましい」として女子向けの家庭科へと方向づけられ、1958年の教育課程審議会答申では科学技術の向上を目指して技術科が新設され、さらに1974年改訂の学習指導要領で女子のみの必修科目に変更された。このように韓国と日本の高等学校家庭科は、男女共通履修から、工業振興を背景にした技術教育に重点をおく社会的背景を受けて、男子には技術力が、女子にはその家庭を支える力の育成が要請され、家庭科は女子のみ履修へと変わっていった。(2) 1970年代後半に入ると、国際婦人年を迎え、国連により男女平等が推進される中で、韓国と日本両国とも家庭科は男女がともに学ぶ必要があると議論されるようになった。韓国においては、1979年から教育課程の研究を担った韓国教育開発院により、「教育課程上の男女差異撤廃」が推進された。その結果、1981年改訂の第4次教育課程で、「実業・家政」の男女区別表示をなくしたが選択履修となった。日本では1972年に「家庭科の男女共修をすすめる会」が発足し男女共修の家庭科に向けた活発な取り組みがなされていたが、1979年に提案された国連の「女子差別撤廃条約」の提案を契機に、1989年改訂の学習指導要領で高等学校家庭科は男女必修に変更された。このように日本も韓国も国際婦人年を契機に男女共修になったことは共通している。しかし、日本では民間の動きが活発であったことに対し、韓国では国の研究所における男女平等教育へ向けた取り組みが中心となって男女共修へ変化していったことに相違がある。(3)現在、男女必修の家庭科に変化が始まっている。韓国の1997年改訂の第7次教育課程では、「実業・家政」が「技術・家政」という教科名に変更され、初等学校5年生から高等学校1年生まで男女が必修として履修する科目となった。しかし、2009年に改訂された2009改訂教育課程では、高等学校「技術・家政」が選択になっている。一方日本では、1999年告知の学習指導要領によって2単位科目が設置され、現在その科目の履修が増加している。これらの結果、両国とも家庭科の平均的な履修単位は減少していることが共通の問題となっている。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572000768
  • NII論文ID
    130005021572
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.20.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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