CIE家庭科係官M.ウィリアムソンの家庭科教育思想

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Thought of M.Williamson on homemaking education
  • -by Analysis of her doctoral thesis-
  • -学位論文の分析から-

抄録

[研究目的と方法]<BR> 占領下日本の家庭科教育の成立と展開に重要な役割を果たした人物として,GHQ/SCAP,CIE の家庭科教育担当官M.ウィリアムソン(Maude Williamson:1885-1969)の評価は高い。日本におけるウィリアムソンの大きな業績の一つは,M.ライル(Mary Lyle)との共著「中等学校における家庭科教育( Homemaking Education in the High Schoolの翻訳本):1950」が翻訳出版され,家庭科教育法の最初のテキストとして,日本人関係者に強い影響を与えたことである。とりわけ第14章の「男生徒に対する家庭科教育」は新しい憲法と民法のもとで,男女平等をめざした家庭科教育界のバイブルともいえるものであった。この他,中等教育研究集会などの目的で各地に出向いた折りには,女性集会に招かれて,日本女性の自立や平等について頻繁に講演を行ったことが米国側文書等に記録されている。以上の2つが示すように,ウィリアムソンは,日本の女子が,自らの尊厳を重んじ,男性と同様の権利意識をもち,同じ内容の教育を受ける機会をもつことを望んでいた。このような男女平等の教育思想は,いかに形成されていったのだろうか。本研究は,ウィリアムソンが1942年にスタンフォード大学に提出した学位論文「1819年から1919年までの家庭科教育の発展( The Evolution of Homemaking Education 1819-1919)」の内容を分析することによって,女子教育・家庭科教育思想の形成の一端を見出すことを目的としたものである。なお研究方法は上記の学位論文を中心とした文献研究である。<BR> [結果]<BR> (1) ウィリアムソンの学位論文は次の10章から成り立っている。「第1章:序」,「第2章:女子教育憲章」,「第3章:家事教授」,「第4章:家事経済-キャサリン・ビーチャー」,「第5章:家事科学-社会的・教育的背景」,「第6章:家事科学」,「第7章:家政学」,「第8章:家庭科教育-社会的・教育的背景」,「第9章:家庭科教育」,「第10章:正しいとされた信念と実現した予言」。(2) 序章では,「1917年のスミス・ヒューズ方の成立により家庭科教育が飛躍的に発展したが,これの約100年前の1819年,エマ・ウィラードがニューヨーク州議会において,男性と同等の教育の機会を女性に与えよ,という女子教育改革についての歴史的な演説を行った。本論文は,この1819年から1919年に至る家庭科教育発展の全体像を明らかにしつつ,発展要因を把握するものである。」と研究目的について述べて,家庭科教育成立前史研究の意義を示している。(3) 第2章では,母となるべき女子の教育を発展させよ,と主張するウィラードの女子教育思想が取りあげられている。第3章では,男性と同じ形の教育ではなく,女性の本質を生かした教育を要求する思想がライアンらによって主張されたことが記されている。(4) 第4章ではビーチャーの女子教育振興への貢献について述べられ,第5・6章では,州立大学における家政教育の発展と公立学校へのマニュアル・トレーニングの導入が家庭科教育の確立の要因になったこと,さらに第7章では,リチャーズを中心とした科学者集団が新しい学問である家政学を形成し,この学問を背景とした教育の必要性が主張されたことが示されている。(5)第8章では,1910年以降の家庭科教育の発展を促す要因として,家庭生活の教育に意義を見出すNEAの研究を取りあげ,さらに第9章では,「家庭での全ての活動に関して家庭管理教育が必要である」と主張するA.リチャードソンが連邦政府の教育局に着任したことによって,生活改善を目指す女子の広範な家庭管理教育計画が確立したことが記されている。<BR> 以上のように,アメリカでの家庭科教育の発展要因について歴史的手法で研究し,それらを明らかにしたことによって,この教育は男女ともに実施されねばならない,というウィリアムソンの信念は確かなものになったと考えることができる。そして,このような思想が占領下での家庭科教育政策に反映されたことは日本人にとってこの上ない幸いであり,現在に至るまでのわが国の家庭科教育発展の基礎を形成したとして顕彰すべきである。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572060032
  • NII論文ID
    130006962392
  • DOI
    10.11549/jhee.52.0.30.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ