<br><br>背景と目的<br><br> 持続可能な社会づくりに向けて、家庭科においても生活と環境とを関連づけ、環境負荷の少ない環境に配慮したライフスタイルについて学び考えることは、重要課題となっている。中でも、地球温暖化の主な原因物質とされるCO2の排出削減は切実な課題のひとつである。しかし、化石燃料と呼ばれる石炭・石油・天然ガスなどのエネルギー資源の燃焼によって大気中に排出されるCO2と日常生活との関わりは気づかれにくい。そこで、家庭科教材の中にライフサイクル思考（以下LCT）（＝資源調達・生産・使用・廃棄というライフサイクル全体の視点で環境への負荷を捉える思考方法）を取り込むことで、日常生活が環境に与える負荷に気づき、実践する力につながる能力を高めることをめざして教材を開発した。教材作成に当たっては、製造業を中心に産業界で普及が進んでいる製品の一生における環境負荷を定量的に算定するライフサイクルアセスメント（以下LCA）の手法を活用した。ここでは、開発教材を提示すると共に、試行による検討結果を報告する。<br><br>方法<br><br> 開発教材のテーマは「衣生活と環境」である。タオルの使用（洗濯）に焦点を絞って教材化した。作成した教材は、教師用解説資料と生徒用資料およびワークシートである。主な授業対象は中学生と高校生に設定した。<br><br>結果および考察<br><br>１）開発教材の概要：開発教材では、衣生活に関する学習の一部である「洗濯」と結び付けて教材を作成した。わかりやすくするために、「洗濯」を「洗濯する行為」＋「洗濯する物」に分け、それぞれで「CO2」との関係を考えさせることとした。「洗濯する行為」は具体的には一般家庭で広く使われている電気洗濯機で洗うこととし、「洗濯する物」はバスタオルとした。「洗濯する行為」は、LCAではタオルの一生の中で「使用」段階に当たり、具体的には水道水と合成洗剤を洗濯機に入れて回し、洗った後は汚れた水を排水する行為である。教材では、これらの要素とCO2とのかかわりを定性的に示し、その後でLCAによって算定したCO2排出量について定量的な結果を示した。このプロセスを追うことで生徒には洗濯機を動かすための電力だけでなく、上下水道の利用や合成洗剤の使用においてもCO2が排出されていることに気づきを与えることができる。さらに、風呂水の利用や洗剤の使用量の違い、乾燥方法によるCO2排出への影響も示し、考察できるよう工夫した。<br><br>次に、「洗濯する物」としてバスタオルそのものによる環境への影響を考えさせるために、資源の調達（タオルでは素材としての綿の収穫）、生産（綿糸からタオルへの加工）、輸送等で動力や電力を使うため排出されるCO2があることを示した。これにより、タオルそのものからはCO2は出ていないが、製品となる過程でCO2が排出されていることから、良いものを大切に使うことの価値に気づくことになる。さらに、LCT関連事項として、フェアトレードやオーガニックコットンなどの話題も示した。<br><br>２）試行結果：開発した教材について、大学生および中学・高校の家庭科担当者に提示し、授業における有効性について意見を収集した。その結果、授業者側からも、身近なタオルという製品の使用がCO2の排出と関係が深いことに気づき驚いたとの声が出され、生徒への提示の仕方や学習方法が重要であり難しいが、教材として意義があるとの意見が出された。今後、さらに検討を重ね、有効な教材として完成させていくことが課題である。<br><br>注）本研究は環境省環境研究総合推進費（1-1302）「プラットフォーム化を目指した日常行動に関わるLCAデータの整備と教材開発」の一環として、（一社）未踏科学技術協会（水野建樹他）と共同で実施したものである。