家庭科におけるキャリア教育の可能性の検討 －被災地の高等学校家庭科教員対象調査結果から－

【目的】 <br>  近年、情報化や国際化など子どもの育つ社会環境は大きく変化し、産業・経済の構造的変化や雇用状況の変化によって、子ども自身の将来の捉え方にも影響を与えている。子どもたちは自らの将来の夢を描くことが容易ではなくなっており、それに伴い、進路意識・目的意識が希薄なまま進学する者の増加など「社会的・職業的自立」に向けた課題が見られている 。他国に比べ、将来就きたい仕事や自分の将来のために学習を行う意識が低いとの報告もある（TIMSS調査2007他）。このような状況を踏まえ、教育場面において、キャリア教育の充実が喫緊の課題として図られている。高等学校家庭科では、新学習指導要領（2009）において「生涯の生活設計」が取り扱う内容とされた 。自己の在り方生き方を、生活という視点を通して総合的に捉え、主体的に創造するのが家庭科教育である。主体的な生活を創造するためには、経済的自立とそれを支える職業生活、家庭生活、地域生活の充実は欠かすことができない。この三者のバランスを考え、社会的・職業的自立を支援する上で家庭科教育の担う役割は非常に重要なものと言える。<br>  一方で、東日本大震災から4年を経過した現在、震災を踏まえた中・長期的な視点にたった生涯発達を指向した生き方教育、キャリア教育を検討することが必要となっている。特に、自らに対して無気力感を感じ、将来に不安を抱えているとの報告がなされている被災地に暮らしている児童・生徒に対して、明るい将来を自らの力で切り拓いていく力の育成が必要であり、家庭科教育における有効な実践が待たれている状況といえよう。<br>  そこで本研究では、震災を踏まえ、家庭科において生涯発達を指向したキャリア教育の可能性を検討することを目的とする。特に本報告では、福島県、岩手県、宮城県の家庭科教員対象調査より、被災地における高等学校家庭科におけるキャリア教育の現状と課題を明らかとする。 <br> 【方法】  2015年1月～3月に郵送によるアンケート調査を実施し、福島・宮城・岩手県の全高等学校297校の家庭科教員を対象とした。有効回収数は、106名、有効回収率35.7％である。また、調査内容は、家庭科におけるキャリア教育の取り組み、高校生の実態に関する教員の認識、東日本大震災後の家庭科の学習内容等である。<br> 【結果及び考察】　<br> (1)家庭科におけるキャリア教育の取り組み状況 　<br>  学校教育全体でキャリア教育に取り組むことは「重要である」と全員の教員が認識しており、家庭科教育でのキャリア教育も93.3％の教員が「必要である」と考えている。しかし、現在、キャリア教育の視点を取り入れた家庭科の授業の実践をしている割合は過去の実践を含め、６割にとどまった。また、家庭科におけるキャリア教育実践の課題として、「時間の確保」74.5%、「キャリア教育に関する知識不足」49.1%があげられた。 <br> (2) 家庭科におけるキャリア教育にて育成できる能力他 　<br>  家庭科におけるキャリア教育において育成できる能力については、中教審答申（2011）において新たに定義された「基礎的・汎用的能力」に関連する能力を中心に、課題解決能力、将来設計能力、コミュニケーション能力、自己理解・自己管理能力等があげられた。また、高校生の抱える課題としても、同様にコミュニケーション能力、人間関係能力、自己理解・自己管理能力、課題解決能力等があげられ、高校生に対して家庭科におけるキャリア教育の有効性が示唆された。<br> (3)家庭科においてキャリア教育と関わりの深い学習内容の実践状況 　<br>  生活設計に関する内容のみならず、家族・家庭生活、保育、福祉、消費生活といった幅広い内容において、実践されていることが明らかとなった。<br> (4)東日本大震災後の家庭科の学習内容等 <br>  東日本大震災後、防災学習等、新たに取り入れた学習内容が認められたが、未だ復興途中の被災地に暮らす生徒に対して、どのような学習を行えばよいのか、模索している実態が見受けられた。