小学校における「時間」に関する教育と教科「家庭科」の役割

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タイトル別名
  • "Time" education in elementary school and role of subject "Home economics"

抄録

_I_.問題の所在  平成20年4月に、わが国の子どもの様々な問題状況をふまえ、「確かな学力」「豊かな人間性」「健やかな体」の調和的発達から「生きる力」の育成を理念とする小学校学習指導要領(以下、『新指導要領』と称す)が公刊された。子どもが抱える問題状況を分析すると、その根本には、「時間」を基盤とする生活習慣の乱れが存在していることが推察された。本研究では、学校生活の始期段階にあたる小学校における「時間」に関する教育のあり方を、子どもの心・体の育成に携わる教科として位置づけられた「家庭科」から考察することを目的とした。 _II_.方法  『新指導要領解説』(総則編・全編)と昭和22年度から平成10年までの小学校家庭科学習指導要領・教科書を資料とした文献分析研究。 _III_.結果と考察 1.「時間」に関する教育の構造化と家庭科の位置づけ:『新指導要領解説』全編から「時間」に関する教育の語句を抽出し、分類・構造化を行った。小学校では、6種類の「時間」を、全教科で児童の発達段階に応じて科学的に認識させ、それを総合的な学習の時間・道徳・特別活動で日常生活を営むために必要な行動へ確立させることで、最終的には、児童自身による「自己」の確立を目指す構造を有していると捉えられた。その中に家庭科は、個人的時間を自分と家族との関係の中で科学的に認識させる役割を持って位置づけられていた。 2.教科「家庭科」における「時間」に関する教育:教科のねらいと原理に立脚すると、家庭科の「時間」に関する教育は、「狭義の環境」の内容に位置づけられ、家政学の時間との関係性を解明する学問領域である家庭経営学を基盤とする法則・理論の系統的学習により、「学習者が時間と関わり生活を営む」ことに関する科学的認識の形成をねらいとする「科学的探求型『時間』教育」が目指されなければならない。家庭経営学では、「人と時間との関わり」は「生活時間の経営」として捉えられており、それに基づくと、家庭科の学習内容には、a「生活時間」の概念(1日24時間の生活内容と時間配分・個人の生き方を示すもの)とその「経営」の概念(b人生の資源(有限性・多用性・有効性)としての認識c有効な使用d生活を再生産する積極的な意志)が必要となる。 3.『新指導要領』に示された家庭科における「生活時間」教育:上記 3を枠組みとして、『新指導要領解説家庭編』を分析すると、そこに示されていた家庭科は、教科のねらい・原理に基づく目標・内容を有しておらず、家族の一員として家族を大切にする児童の育成を目指していた。「生活時間」は、家族領域の中に、家族を大切にし、家族に協力する手段として位置づけられているため、「生活時間の経営」に関する概念は存在していなかった。 4.わが国の学習指導要領に示された家庭科における「生活時間」教育: 4の問題を解決する示唆を得るため、昭和22年度から平成10年までの小学校家庭科学習指導要領・教科書の分析を行った結果、昭和31年度 版学習指導要領に3の理念を具現化した小学校家庭科と「生活時間」の教育を見ることができた。そこでは、教科のねらい・原理を踏まえ、児童を家庭生活を営む一人の生活者として捉え、内容を家族関係・生活管理・住居・被服・食物の5分野で編成していた。その中で「時間」は、労力・物資・金銭と共に「資源」として生活管理分野に位置づけられていた。生活管理は、「合理的な生活」「労力と休養」「時間の尊重」「物資の尊重と活用」「金銭の使い方」の構成概念で組織され、その下位に各資源と人との関係を示した一般原理、さらにその下位に具体的な概念が児童が身につける行動目標として設定されていた。「時間の尊重」では、児童の自律を目的とする「時間の尊重」「規則的な生活」「余暇利用」の一般原理と前述したa~dに関する概念が内容として組織されていた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572181248
  • NII論文ID
    130006962523
  • DOI
    10.11549/jhee.54.0.54.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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