小学校家庭科衣生活内容「布を知る」の検討

書誌事項

タイトル別名
  • Study on teaching materials for textile and clothing in elementary school: how to treat textiles

説明

1.目的<br> 近年、児童・生徒を取り巻く衣生活環境の多様化、複雑化が著しく、家庭科における衣生活に関する基礎的・基本的な指導内容の精選があらためて課題となっている。これまで、発表者らは小学校家庭科衣生活内容における着方学習について、「空気」をキーワードとした授業提案を行ってきた。本研究では、さらに衣生活に関する内容全般(被服製作を除く)について、布の構造と空気が軸となる一貫した授業計画を提案することを目的とする。ここでは、被服材料学の立場から、小学校家庭科衣生活の基礎的・基本的な指導内容として「布を知る」学習について検討する。<br><br> 2.方法 <br> 新学習指導要領解説、2011年度から使用されている2社の小学校家庭教科書および学習指導書における衣生活に関する内容を省察し、被服材料学の専門分野から、小学校家庭科における衣生活に関する専門内容を精査した。本研究では、被服材料として繊維集合体である布が使われる理由を、1)人間の生理機能に適した熱・水分の移動特性をもつ、2)人体の局面を被覆するのに適した力学的性質をもつ、3)変形しやすく柔らかい、4)糸軸方向に寸法安定性が大きいことの4つであると考え、これらを「布を知る」学習の基本とした。「布を知る」学習の現状と課題、布の構造と空気が軸となる一貫した授業計画における位置づけ、あわせて栽培体験活動を通して「布を知る」学習についても検討を加えた。<br>3.結果と考察<br>(1) 「布を知る」学習の現状<br> 学習指導要領解説および小学校教科書では、布の構造と性質についてはミシンを用いた製作実習で取り上げられている。身の回りの布製品を探し、紙と比較して、布の特徴を考える学習を、製作計画の導入に位置付けている。布の特徴として、上記2)~4)を踏まえて、しなやかさ、肌触りの良さ、丈夫さを挙げているが、生活に役立つものの製作に適した布の範疇に限られる。「布を知る」学習は、ものつくりとしての布の性質だけではなく、上記1)の布の保温性や吸水性、通気性などの着心地に関わる性質とあわせて、衣服の着心地に関わる布の性質として理解する必要があると考える。<br>(2) 布の構造と空気が軸となる授業計画における位置づけ <br> まず、導入として布の構造(織物・編物)の学習を行う。厚さの異なる広範囲の用途の布を集めて、織物拡大鏡などによる構造観察を行ない、織り目や編み目に空気が存在することを理解する。また、布に触れていろいろな方向に引っ張ることで、布の力学的性質に基づく着心地に関わる性質(肌触り、伸縮性、しなやかさ、丈夫さなど)を理解する。ここで、風呂敷を教材として用いることにより、2)布が曲面を覆うことに適した性質を持っていることや、結ぶことができること、4)糸軸方向に変形しにくく丈夫であることなど、繊維集合体としての布の性能を理解しやすいと考えられる。また、風呂敷の伝統文化としての意匠性やエコバックとしての経済性などにも発展させることが可能である。<br>(3) 栽培体験活動を通して「布を知る」学習について<br> 滋賀大学教育学部において取り組まれている地域連携活動の「石山っこわくわく親子畑探検隊」の活動において、参加者である小学生15名とその保護者を対象として、綿の栽培体験を通して「布を知る」学習の実践を行なった。綿を栽培し、糸を紡ぎ、紡いだ糸で布を織ることにより、布の成り立ちに関する理解を深めることが出来た。ワタくりやワタ打ちの工程では、ふわふわしたワタに触れることにより、空気を含む集合体であることを実感できた。家庭科での学習との結び合わせは不充分であったが、栽培体験活動を通しての教育材には大きな可能性と有用性があると考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572383744
  • NII論文ID
    130005021457
  • DOI
    10.11549/jhee.55.0.10.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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