食品に含まれる鉄分の可視化に関する教材開発と授業実践

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タイトル別名
  • Development of the teaching materials and the classes that visualize mineral iron in the food stuff

抄録

【目的】食に関する情報が氾濫する中で、食生活については、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、食の安全に関する問題等が指摘されており、食育の推進が求められている。学校教育においても、新学習指導要領の総則の中で、「学校における食育の推進」が明確に位置付けられた。従前から食生活に関する学習を扱ってきている家庭科においても、小学校・中学校・高等学校で内容の充実が図られている。食生活に関する学習の中で、栄養素の種類と働きについては、基礎的・基本的な内容であり、すべての学校種で学習する。五大栄養素の中の無機質は、体の構成や生理作用の調節に欠かせない栄養素であるが、体内で合成することができず、食事によって体内に取り入れる必要がある。しかし、無機質は食品に微量にしか含まれていないため、どの食品に多く含まれているかを実感することはできず、無機質そのものを視覚的に認識することができない。無機質の中でも日本人に不足しがちなのは、カルシウムと鉄であり、青少年期には多く摂取する必要がある。そこで本研究では、無機質をより理解しやすくすることを目的として、無機質の不燃性と鉄の強磁性に着目して食品に含まれる鉄分の可視化を試み、教材化への可能性について検討した。<br>【方法】鉄分を可視化することを目的とした教材開発として、まず、食品成分表を参考に、鉄分を多く含む食品を選んで灰化し、ネオジウム磁石との付着実験を行った。そして、灰化した食品に鉄分が含まれているということを確認するために、鉄分析用試験紙とFe C-テストコワー(Nitroso-PSAP直接法)による分光光度計を用いて灰中の鉄分の有無と濃度を測定し、食品成分表と比較した。<br> 次に、鉄分を可視化する実験を取り入れた授業案を作成し、徳島県N中学校2年生の選択家庭を履修している女子生徒12名を対象として授業実践を行った。授業は、調理実習も含めて2時間の連続授業を3回、合計6時間実施した。3回の授業内容は、(1)食品に含まれる鉄の働きと欠乏症、(2)鉄分を多く摂取する献立の調理実習の計画、(3)調理実習とまとめ、であった。鉄分の可視化に関する実験は、1回目の授業時に実施した。授業の前後にアンケート調査を実施し、鉄分の可視化を取り入れた栄養素の学習の可能性について検討した。<br>【結果】鉄分を含む食品の灰は、ネオジウム磁石に付着した。磁石に付着する灰の量は、鉄分含有量や食品の燃焼時間の違い、灰の大きさ、食品の産地により異なった。また、食品の灰中に鉄分が含まれていることを確認するために、分析用試験紙と分光光度計を用いて鉄濃度を定量したところ、灰中の鉄濃度は、食品成分表に記載されているものに近い値を示す食品が多いことがわかった。以上の実験結果から、食品を灰化し、ネオジウム磁石に付着させることは、食品に含まれる鉄分を可視化できる方法であると判断できた。<br> 授業実践前後のアンケートで、鉄分が多く含まれている食品を書かせたところ、事前では、レバー、ほうれん草の記述または無記入しかなかったが、事後では、記述された食品数が増加した。これは、授業内で灰化した食品がネオジウム磁石に付着するところを見せたために、食品の中に鉄分が含まれていることを視覚的に認知することができ、実感することができたためと考えられる。また、毎日の食事で気をつけたいことを自由記述で書かせたところ、事前ではバランスよく食べる、朝ごはんを食べる等の記述が多かったが、事後では鉄分を多くとるように、中学生の女子は特に鉄が多く入っている食品を食べるように工夫する等、年代に応じた栄養の特徴についての記述が見られた。今後の課題としては、食品の灰は小さく細かいため、一斉授業の際には工夫が必要であること、灰化するには、食品を長時間燃やすため、視聴覚機器等の活用の工夫が必要であること等があげられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572432896
  • NII論文ID
    130005021481
  • DOI
    10.11549/jhee.55.0.32.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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