衣生活における「安全・安心」の概念と具体化の視点

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タイトル別名
  • Concept and concrete standpoint on safety & security of clothing life
  • -中学校家庭科-

抄録

目的 近年、食品の賞味期限や生産地などの偽装、マンション等の耐震偽造などの問題が相次ぎ、生活における「安全・安心」が社会問題になってきた。また、2004年に改正された消費者基本法により、生活全般において消費者自身が「安全・安心」に目を向け、自立することが要求されるようになった。中学校家庭科においても、1989年の学習指導要領改訂により新設された「家庭生活」領域において「消費者としての自覚を持つこと」と言及され、1998年には「生活の自立と衣食住」となり、生活者、消費者の視点がさらに重要になった。日本家庭科教育学会では、消費生活の視点だけでなく生活全般において家庭科の中で「安全・安心」を取り上げるべきであるとし、学会編の著書の中で「消費生活」、「食生活」、「住生活」、「子ども・高齢者・障害者」の安全・安心な暮らしについて論述しているが、被服製作時の機器類の扱い方に関する記述だけで「衣生活」の安全・安心に関する視点は見あたらない。日本家政学会誌の32回(1999~2004年)の「暮らしと安全」シリーズでは、衣生活についても安全・安心にかかわる講座を5回取り上げ、衣服圧や厚底靴などヒトの健康に関すること、抗菌や難燃性など繊維素材や加工に関すること、そして交通安全と衣服の色について言及されている。本研究では、中学校「技術・家庭」の家庭分野における衣生活の「安全・安心」の視点に基づき、まず被服学の専門領域と生活実態の関わりから、学習指導要領及び教科書を見直し分析した。<BR>方法 安全・安心に関わる先行文献から、その概念整理を行い、衣生活の「安全・安心」に関わる内容を学問的・科学的に整理した。その視点から、教科書及び学習指導要領の衣生活の「安全・安心」に関連する記述を抽出した。<BR>結果および考察 「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書(2004、文部科学省)を中心とした先行文献における安全・安心を脅かす要因から、用具・機器類の取り扱い方以外の衣生活の「安全・安心」には、多岐にわたる内容があることがわかった。すなわち、(1) 繊維材料・加工などから発生する皮膚アレルギーなどの健康問題や着衣着火などの災害・事故、(2) 衣服や靴のデザインから起こりうる性犯罪や、衣服の巻き込み、転倒などの事故、さらに衣服による圧迫から発生する健康被害、(3) 寒暖やTPOに適した着方と関連する健康問題、地球環境問題そして社会生活上の問題、(4) 被服製作実習の裁断間違いや衣服の手入れの間違いから資源の無駄を生じさせることにより起こりうる経済問題、環境問題である。学習指導要領における衣生活の安全・安心に関わる直接的表現は、仕事を安全に進める(1951年)、生活に必要な基礎的技術についての学習経験を通して、協同と責任と安全を重んじる態度を養う(1958年)、裁断用具や縫製用具の使い方、手入れおよび安全な取り扱い(1969年)などに見られるように、被服製作や実習を「安全」に進めるための用具・機器類の使い方と手入れおよび安全な取り扱いに終始している。1998年改訂の学習指導要領「A生活の自立と衣食住」では、食生活と住生活では安全に関わる表現が認められたが、衣生活の安全に関する表現はなかった。現在の中学校家庭教科書における安全・安心に関する記載は、学習指導要領と同様に、用具・機器類の使い方にほぼ偏っていたが、T社教科書では、幼児服を安全から言及し、洗剤や柔軟仕上げ剤などによる湿疹、金具やひもによる引っかかり、サイズの合わない衣服は動きを妨げるという記述があった。衣生活の「安全・安心」に関する内容は多岐にわたっており、意識的に取り扱う必要がある。独自単元として扱うのではなく、現行の単元に「安全・安心」の視点を含め、それぞれの小単元において、反復して学習させることが重要である。続報で、具体的な授業実践例をもとに示す。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572447872
  • NII論文ID
    130006962847
  • DOI
    10.11549/jhee.51.0.39.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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