持続可能な社会の実現を目指す家庭科教育に関する研究

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タイトル別名
  • Home economics education towards a sustainable society

抄録

【目的】自然環境の汚染,気候変動,貧困などの地球的な諸問題を解決するためには,教育によって持続可能な社会の実現を目指す人材の育成が必要かつ重要である.国連もその重要性を認め,2002年に「持続可能な開発のための教育(以下,ESD)」を採択している.家庭科教育においても,環境に配慮し,他者との共生と連携を大切にする生活観を育むことが目指されている.またそのような理念だけではなく,主体的に実践する生活者の育成を目指すことから,ESDとかかわるところは大である.したがってこれからの家庭科教育において,持続可能な社会の実現という観点で教育内容を提案することは非常に重要であると考えられる.そこで,持続可能な社会の実現(以下,持続可能性)という観点を導入した家庭科教育を実現するために,家庭科の教科書の食分野を分析し,教科書で持続可能性がどう扱われているか明らかにする. 【方法】分析対象とした教科書は高等学校「家庭総合」の2002年の検定本1冊(1社)と2006年の検定本9冊(6社),計10冊(7社)である.持続可能な社会の実現を目指すためには,主体的に参画することが重要である.そのためには現状を知り,参画のための方法を学ぶ必要があると考え,分析の視点を次の4つに定めた. 視点1:持続可能な暮らしを妨げる生活課題についての記述があるか.視点2:個人レベルの持続可能な暮らし方についての記述があるか.視点3:持続可能な暮らしを妨げる生活課題を社会的に解決しようとする動きや取り組みについての記述があるか.視点4:持続可能な暮らしを妨げる生活課題の社会的な解決に向けて、子ども自身の主体的な参画を促す記述があるか. まず各教科書について持続可能な社会の実現に関する記述の有無を検討し,見出された記述を前掲の視点1~4に分類した.図表や写真についても同様にした.次に,記述内容を表すキーワードを定め,教科書ごとにデータベースを作成した.最後に,それらのキーワードをいくつかの大項目に類型化してデータベースを完成させ,見出された視点を集計し分析した. 【結果と考察】高等学校「家庭総合」の教科書10冊を分析した結果,以下のことが明らかとなった. 1. 持続可能性に関して45のキーワードが見出された.持続可能性に関する記述の多くは視点1や視点2であり,視点3や視点4は少なかった. 2. 持続可能性に関する45のキーワードを,『食文化』,『生産・流通』,『調理』,『食行為』,『廃棄』の5つに分類した結果,『生産・流通』が最も多く,次に『廃棄』が多く,『食文化』や『食行為』は少なかった. 3. 教科書によって持続可能性の取り扱いに差があり,持続可能性に関してキーワードが多いものが4冊,少ないものが6冊であった.また視点1,視点2,視点3の記述は全ての教科書に見出されたが,各視点の記述数は教科書によって差があり,視点4の記述は7冊の教科書では皆無であった. 4. 例えば「旬」のように,教科書によって視点が見出される記述と見出されない記述があったり,「食品の選択」のように見出される視点が異なる記述があったので,記述を工夫することで,記述内容がより良いものに改善される可能性が示唆された. 5. 持続可能性に関する記述がいつから出現し,どのように記述されてきたのかを明らかにするために,過去の教科書にさかのぼって分析することが今後の課題である. なお,本研究は平成18-21年度文部科学省科学研究費補助基金基盤研究(C)課題番号18500579【代表者:福原美江】によって行われた研究の一部である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572466176
  • NII論文ID
    130006962882
  • DOI
    10.11549/jhee.51.0.27.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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