調理学習における「選択」と脳機能の関連性

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タイトル別名
  • The Relationship between Choice and Function of the Brain in Cooking Lessons.

抄録

<br><br>研究目的 <br><br>  意思決定能力は「問題認識」「資源・情報の適切な収集・選択」「記憶との照合」「適切な価値判断」能力の総合力である。 家庭科教育において主体的な生活者を育成するためには、生活のあらゆる場面において適切な価値判断と意思決定ができる能力を身につけさせることが必要である。またこの能力は全ての児童・生徒に必要な能力であり、特別な支援を必要とする児童・生徒も例外ではなく、障がいの多様性をふまえながら育成することをめざしたい。<br>  本研究者らは、調理学習が、意思決定能力育成を促進することを今までの研究において明らかにしてきた。健常児においては調理学習における意思決定能力の中でも高次脳機能である今までに獲得した知識・技術を総合させ、最も適切な判断・決定のもとに行なわれている献立・調理実習時の「段取り」の能力に焦点を当て、授業実践、脳血流の測定の側面から実証を試み、概ねその効果を検証することができた。<br>   特別な支援を必要とする児童・生徒については、まずC県の全数調査を行ない、家庭科の授業の内容や方法及び実施状況等の実態を把握した。結果、食生活の従来の指導は児童・生徒の主体的な選択場面は非常に少なく、教師によって準備・指導・訓練されることが多いことが明らかとなった。そこで調理実習時の意思決定プロセスの中で、「適切なものを選択する」プロセスに焦点をあて、選択場面を意図的に導入した授業実践を複数回行った結果、「選択する」能力が高まったことが明らかになった。(前報)<br>  以上の結果をふまえて本研究の目的は、調理実習時の意思決定プロセスの中で、「適切なものを選択するプロセスの学習は、脳機能を活性化させ、さらなる意思決定能力を育成することができる」の研究仮説を設定し、その検証を試みることである。<br><br>研究方法<br><br>   調査対象は、C県の公立小学校(T校)通常学級児童6名、及び特別支援学級児童4名の合計10名、調査期間は2014年12月~2015年2月であった。<br>   調査方法は、対象児童に光イメージング脳機能測定装置fNIRSを装着して、本研究者らが作成したご飯とみそ汁及び野菜炒めに関するレベル別の問題(小冊子)を回答してもらい、脳血流の測定をした。冊子は、生活経験、基本的・基礎的知識及び総合的に判断する場面を設定した内容に構成されている。この一連の調査は、児童の各問題回答時の様子をビデオ撮影し、それぞれの児童の日常の学習や生活経験等をふまえて事例的・総合的に分析検討した。<br><br>研究結果<br><br>  通常学級、特別支援学級に所属する児童のすべてに、総合の選択場面において、個別の相違はあるが脳機能の活性化が認められた。また、生活経験や基本的知識の多少が脳の活性化に関連していることが明らかとなった。通常学級の児童の全体の傾向は、経験、知識、総合問題のどの場面においても、部分的な活性化が認められた。また特別支援学級に所属する児童の全体的傾向は、経験と比較すると知識と総合場面においてより活性化が認められた。<br>  事例研究では、日頃より「選択すること」が不得意である通常学級のS子の場合、経験や知識に比して総合的な問題場面で脳血流の活性化がみられたことにより、意図的に考えさせる場面を導入することが次の意思決定場面における主体的な選択能力育成につながると推測される。通常学級のK男は、生活経験、基本的知識共に豊富であり、課題が安易すぎるためかほとんど活性化が見られなかったが、総合的に判断・選択する場面でわずかな活性化が認められた。この児童に関しては負荷を意図的にかける必要性が示唆される結果となった。<br>  特別支援学級のT男は、家庭での実践経験が豊富であり、また知識欲も持っており、総合的な選択能力が高いことが認められた。経験、知識、総合的な選択能力には正の相関がみられることから実践経験や基本的な知識の学習と共に総合的な考え方の学習の必要性が明らかとなった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572509184
  • NII論文ID
    130005485020
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_28
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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