生命に対する感性と家事を手伝う時間との関連

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タイトル別名
  • Relation between sense of life and time spent for daily household matters of students.

抄録

【目的】新しい学習指導要領の理念ともなっている「生きる力」を育むことは、家庭科という教科においては非常に重要な課題である。特に調理実習などでは、生徒の前向きな姿勢が見られ、生きる意欲を培うことにも繋がっていくと期待できる。「生きる力」をどのような尺度で測るか難しいが、生きる意欲、つまり積極性、自主性、協調性などとの関連はもちろん、他者の生命に対する共感性、さらには自分自身の生命を尊重する気持ちや自尊心との関連もあると考えられる。 本研究の目的は、生命に対する感性と家事を手伝う時間がどう関連しているか明らかにすることである。 そこから、「生きる力」を育てる家庭科教育の具体的な今後の方向性や課題を探りたい。<br>【方法】私立の中学生384名、高校生33名に対するアンケート調査を、平成26年9月に行った。家庭科の授業の中で、生活時間と生命に対する感性に関する質問項目を設けた調査を実施し、家事を手伝う時間・過去における包丁使用の頻度と、生命に対する感性の強さを示す質問項目とのクロス集計により、関連があるか分析した。<br>【結果】まず、家事手伝いの時間の長さと、ア「誰かが亡くなったニュースを見て、かわいそうと思う」気持ちの強さ、イ「食材の命の分までしっかりと生きていきたい」気持ちの強さ、ウ「自分のことはできるだけ自分でするようにしたい」気持ちの強さ、との関連を見ると、有意な相関関係があった。 また、包丁の使用経験の多さは、上記のア、イ、ウに加え、エ「自分の命を大切にしたい」気持ちの強さ、オ「自然の営みや命のつながりを不思議だと思う」気持ちの強さ、カ「文化祭などの学校行事や勉強に意欲的に取り組みたい」気持ちの強さとの有意な正の相関関係があった。<br>【考察と今後の課題】以上の結果から、家事手伝いの中でも包丁を使って食材を調理するという体験の頻度は、他者の生命への共感性との相関関係だけでなく、自主性や協調性、さらには生きる意欲との相関関係も強いということが推察される。 平成21年の青少年白書によると、青少年の自然体験活動は年々減少しているが、自然体験活動が多い青少年ほど、自立性、積極性、協調性があることが明らかになっている。調理体験を食材という自然との接触と位置付ければ、今回の結果は、調理体験の多い生徒ほど、自主性や協調性、生きる意欲が育まれやすいという因果関係があると解釈することができるかもしれない。しかし、はっきりとした因果関係を明確にするためには、今後パネル調査などの必要性も視野に入れていく必要がある。今回の調査では、どのような自然体験を行ったか、自然に対する感じ方を尋ねた質問項目や、テレビの視聴時間、テレビゲーム、パソコン、携帯電話などIT機器などのメディアとの接触時間や自宅学習時間を尋ねた質問項目もあるので、それらとの関連についても、さらに詳細な分析をしていく必要がある。特にテレビゲームについては、最近の研究で、長時間使用が共感性を鈍らせたり、暴力性を強めたりする傾向があるとの結果が出ている。インターネット依存症が52万人、15~39歳の若年無業者が200万人に上るという昨今、子どもたちの実体験の不足傾向はますます強まっている。バーチャルな体験に根差した根拠のない仮想万能感が、子どもたちの心理に蔓延していることが懸念される現代の日本の社会状況の中で、リアルな実体験の有効性や価値を検討する上でも、家庭科教育における調理実習の意味づけを更に明確にし、その重要性を実証できる研究を重ねてゆかねばならない。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680572771584
  • NII論文ID
    130005478244
  • DOI
    10.11549/jhee.57.0_95
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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