高等学校男女共修家庭科自主編成運動と地域

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タイトル別名
  • The History of Co-Ed Home Economics Education in Senior High Schools
  • 1960年代?1970年代の京都・長野・北海道
  • Kyoto, Nagano and Hokkaido in 1960's- 1970's

抄録

目的:本研究は、1960年代から1970年代の家庭科の自主編成運動について、地域性に注目しつつ、その歴史的意義を明らかにすることを目的としている。この期は、「家庭一般」(2?4単位)の普通科女子必修を明記した1960年版高等学校学習指導要領から、すべての女子に「家庭一般」(4単位)を課した1970年版高等学校学習指導要領が実施された時期であり、これに対し高校家庭科の自主編成運動が始まった。<br /> 筆者らは1973年4月に始まり1994年3月まで継続された京都府立高等学校の男女共修家庭科について、関係資料を収集整理するとともにその全容を明らかにする研究に取り組んできた〔「資料保存と府立研究会の組織体制について」(2012年12月例会)、「府立研究会の指導資料について」(2013年大会)、「到達目標の作成について」(2014年大会)、「女子のみ「家庭一般」(通称「残家」)について」(2015年大会)、「家教連京都サークルと京都府立高等学校男女共修家庭科実践」(2016年大会)要旨参照〕。<br /> 本研究では、京都の自主編成運動が他の地域に与えた影響と当該地域での自主編成運動の取り組みについて検討したい。対象地域は、自主編成運動に熱心に取り組み、今日においても研究活動を継続し会報を発行している長野県と北海道である。<br />方法:長野県と北海道に関する聞き取り調査と文献調査を2015年8月?11月に実施した。聞き取り調査は、長野県の富松裕子氏(12時間、横浜市および長野市内)、北海道の三浦きみ子氏(4時間、札幌市内)、吉澤澄子氏ほか3名(2時間、帯広市内)である。文献調査は富松氏所蔵の長野資料161点、北海道の調査対象者所蔵の北海道資料190点である。富松氏は長野県の男女共修「家庭一般」自主編成の中心メンバーであり、三浦氏、吉澤氏らは北海道および十勝の家庭科教育研究者連盟の中心メンバーである。<br />結果:長野県の自主編成運動は、1967年に20代30代の若手教員のサークル活動から始まり、長野県高等学校教職員組合(長野高教組)の教育文化会議(教文会議)の支援のもと短期間で資料集を作成、それをもとに1973年度には5校で男女共修が実施された。この間、1968年からは京都市立堀川高校の安田雅子氏から指導を受けるなど、京都の実践から学びつつ、独自の発展を遂げる。とくに、自主編成の資料集『資料・家庭一般』は2003年まで出版され、最盛期は1万部が販売されるなど共修実践の普及に大きな役割を果たした。<br /> 北海道では、1960年頃より十勝の斎藤節子氏らが中心となり、組合教研で「家庭一般」男女共修試案を発表するなど先進的な取り組みが行われていた。1964年に十勝家庭科教育協議会が結成され、1966年の家庭科教育研究者連盟(家教連)が発足にともない十勝家教連と名称変更し活動を継続した。加えて、1966年の第1回家教連総会に北海道から出席した比志道子氏らの呼びかけで1966年に北海道家教連が発足した。なお、北海道家教連には十勝の会員も参加している。<br /> 北海道と京都・長野の交流を資料から見ると、安田氏の授業実践を参観したり、富松氏を学習会の講師として招いている。また、日教組教研や家教連全国大会を通じての交流もあり、影響を受けていたことが確認された。いっぽうで、北海道では、外崎光廣、我孫子鱗、伊藤セツ、清野きみ等研究者から教育や経済の理論を学びつつ、北海道の地理的条件や厳しい生活環境を反映した独自の授業実践が展開された。<br /> 以上のように、京都の自主編成運動は、安田氏を通じて長野に影響し、京都・長野の実践は北海道にも伝わっていた。いっぽうで、長野・北海道ともに自主編成による独自の授業実践を行っており、各教員への組織的な支援状況や地域の生活実態により、多様な実践が行われたことが確認された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680573560704
  • NII論文ID
    130005966587
  • DOI
    10.11549/jhee.60.0_78
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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