中等教員養成課程における異教科間対面式交流がもたらす学生の家庭科観の変容

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  • Transformation of college student's view of home economics in secondary teacher training course by face-to-face exchanges between different subjects

抄録

【目的】<br> 平成20年1月の中央教育審議会答申により,家庭科,技術・家庭科では他教科等との連携を図ることが,学校現場だけではなく,教員養成課程においても重視されるようになった。先行研究(荒井ら:2010,永田ら:2004)から,他教科の学習内容を踏まえた授業づくりや他教科を専攻する学生との交流が,学生の思考力や教科専門性を向上させるということが明らかとなっているが,その具体的な効果は明らかにされていない。そこで,本研究では,H大学において中等家庭科,社会科及び理科教員養成課程を専攻する学生に,家庭科の模擬授業への参加,並びに家庭科学習指導案の検討を通して対面式交流を行わせ,学生がもつ家庭科観に変容がみられるかを明らかにすることを目的とした。<br>【方法】<br> 中学校技術・家庭(家庭分野)「B食生活と自立」におけるハンバーグを題材とした家庭科の模擬授業を考案し,H大学において中等家庭科,社会科及び理科教員養成課程を専攻する第4学年の学生18名(男子8名,女子10名)を対象に実施した。模擬授業中,3教科各1名の男女混合3人班に分かれて学習活動に参加してもらい,模擬授業後,各班で意見交換をしながら家庭科学習指導案の修正案を作成してもらった。そして,交流前後の質問紙調査における学生の家庭科観の変容を,交流後に実施したヒアリング調査で得られた学生の意見とあわせて分析,考察した。<br>【結果】<br> 質問紙調査にみる異教科間対面式交流前後の学生の家庭科観の変容は次の通りである。<br>1)家庭科に対する認識を問う項目では,交流前後の質問紙調査結果を比較すると,8項目のうち,「活動が多くて楽しい」,「実生活に役立つ」の2項目において,交流後は3教科ともに肯定的な回答が100%を占め,否定的な回答がみられなくなった。<br>2)家庭科の教科観を問う項目では,交流前,家庭科専攻学生は,「人生を豊かにする教科」,「多様な可能性を持つ教科」などの家庭科の将来性を捉えた記述が多かったのに比べて,社会科及び理科専攻学生は,「何かをつくる教科」,「技能が必要な教科」など,技能教科として家庭科を捉える記述が多く挙がった。交流後は3教科ともに否定的な記述がみられなくなり,社会科及び理科専攻学生においては,「思考も技能も等しく必要な教科」,「生活の基礎を身につける教科」などの具体的な記述が増加した。<br>3)家庭科の認識を深めたことによる変化を問う項目では,14項目のうち,「生活を科学的に見つめることができるようになった」,「異性や自分以外の人の考えや見方を知り,理解が深まった」の2項目において,肯定的な回答の割合が増加した。この結果は,模擬授業において調理に関する実験を取り入れたこと,男女混合の3人班で学習活動を行った影響であると考えられる。<br>4)家庭科と自己の専攻教科との学習内容の関連性を問う項目では,「B食生活と自立」20項目のうち,社会科では12項目,理科では8項目において関連があると感じる得点の平均値が有意に上昇した。最も上昇したのは,社会科で「加工食品の選び方」において0.84ポイント,理科で「調理の計画」において0.83ポイントであった。<br> さらに,「異教科間対面式交流の機会は教員養成課程の学生に必要であるか」の問いに対して,3教科を専攻する学生全員から肯定的な回答を得られた。その理由として,「授業づくりに役立てられる情報を共有することができる」という項目を支持する学生の割合が,3教科ともに100%となった。ヒアリング調査で得られた意見も踏まえると,他教科の学習内容や教材,指導方法との共通点や相違点を見出せたことによって,学生の授業づくりに関する視点が広がったと考えられる。この結果から,この交流の意義が示唆された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680574082688
  • NII論文ID
    130005478278
  • DOI
    10.11549/jhee.57.0_51
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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