デジタル描画による加齢が上肢機能に与える影響の検討

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抄録

【はじめに】<BR>  臨床において広く用いられている上肢機能の評価法として,指鼻試験や線引き試験などが挙げられる.これらは非常に簡便ではあるが客観性に欠けるという問題点を抱えている.障害の程度の定量的評価が実現できれば,験者間での情報の共有や治療法の比較検討が可能となり,リハビリテーションの効果や経過の把握に役立つなど,臨床の場面での活用が見込まれる.我々はこれまでペンタブレットと自作プログラム,ノートPCを組み合わせ,座標,筆圧,時間のデータを経時的に取得可能な上肢機能の定量的評価システムを作製し,第44回日本理学療法学術大会で報告した.今回は,評価システムを健常成人(以下若年者)と健常高齢者(以下高齢者)に適用し,若年者と比較した高齢者の上肢協調性について検討するとともに,筆圧が上肢機能評価の対象として有効であるかについても検討した.<BR> 【対象と方法】<BR>  本研究では体幹および上肢に整形外科的・神経学的疾患の既往がない右利きの若年者21名および高齢者22名を対象とした.全ての被験者には本研究の目的や方法などを説明し,同意を得た後に実施した.なお,本研究は当大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会にて承認されたものである.被験者にはペンタブレット(WACOM社製,Intuos3 PTZ-930)上に提示された図形(正弦波形)をデジタルペンでなぞる描画課題を快適速度で行い,描画中はデジタルペン以外がタブレットと触れないように指示した.算出したデータは垂直方向の座標値変化,筆圧の平均値,筆圧の変化,筆圧の主成分の割合,描画時間である.若年者と高齢者との関係の検討には対応のないt検定を使用した.<BR> 【結果】<BR>  垂直方向の座標値変化は高齢者が若年者と比べて有意に大きい値を示した(p < 0.01).筆圧の平均値は,若年者と高齢者との間に有意差は認めなかった(p > 0.05).筆圧の変化は高齢者が若年者と比べて有意に大きい値を示した(p < 0.01).筆圧の主成分の割合は若年者が高齢者と比べて有意に大きい値となった( p < 0.05).正弦波課題を一課題遂行するために必要な描画時間は若年者と高齢者との間に有意差は認めなかった(p > 0.05).<BR> 【考察】<BR>  垂直方向の座標値変化は高齢者が若年者と比べて大きな値となったが,これは高齢者の空間調節能力低下を表しているものと考えられる.全体の筆圧変化量は高齢者が若年者と比べて大きな値となった.これは筋収縮が時間的・空間的に必要最小限とならないことによる効率低下が原因として考えられる.高齢者において筆圧の主成分の割合が減少したが,この原因として高齢者は時間調節能力の低下による円滑な動作の欠如,力の調節能力低下による合目的な筋収縮の欠如が考えられる.以上の結果から,高齢者は上肢協調性が低下していること,筆圧は上肢機能評価の対象として有用であることが見出された.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680600699776
  • NII論文ID
    130006984178
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2009.0.204.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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