上肢運動評価システムにおける認知症についての検討

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抄録

【はじめに】<BR> 認知症の増加などが深刻な社会問題となってきている中、現在その早期診断の重要性が特に注目されている。一方、高齢者の多くは一般的に何らかの認知障害を有するが、全てが認知症というわけではない。当院のスクリーニングテストにおいて認知機能検査と新たに上肢の評価として用いられている上肢運動機能評価システムを使用しているが、今回従来の認知機能検査において見落とされていた動的な視空間認知や注意障害に対し新たな知見を得たのでここに報告する。<BR>【対象】<BR> 物忘れ外来にて新規で認知機能検査の指示が出た認知症疑い男性2名である。上肢運動機能評価システムの測定は利き手で行い、被験者が運動課題を理解するために数回測定し、二回目以降を解析の対象とした。<BR>【方法】<BR> 認知機能検査としてMMSE、HDS-R、N式精神機能検査(以下N式)、コース立方体組み合わせテスト(以下KOHS)を実施。また、上肢運動機能評価システム(ヒューマンテクノロジー研究所)はPCと液晶ペンタブレットタイプのディジタイザから構成され独自のソフトウェアにより30の運動課題があり、約50項目のパラメータで評価を行うことができる.今回は運動課題の指標追跡等速描円運動課題と単純反応課題を行った。<BR>【結果】<BR> 対象者A(77歳) MMSE25、HDS-R22、N式87、KOHS53、指標追跡等速描円運動課題開始の遅れあり、単純反応課題では、平均年齢に対して反応速度の遅れあり、移動速度遅い。対象者B(67歳) MMSE29、HDS-R28、N式88、KOHS78、指標追跡等速描円運動課題開始の遅れあり、単純反応課題では、平均年齢に対して反応速度の遅れあり、移動速度少し遅い。<BR> 【考察】<BR> 今回、認知機能検査に加え上肢運動機能評価システムを導入した結果、認知機能検査では拾えない特有の症状を見ることができた。認知機能検査にて、共通して取り上げられている項目は、記憶(記銘、保持、再生)、見当識、判断、注意などであるが動的課題に対して客観的に評価できるものがこれまであまり検討されてこなかった。目黒は、最軽度ADにおいてすでに何らかの視空間認知機能障害、注意障害が生じていることを示唆する内容を報告している。視空間認知に何らかの障害が見られる症状として、指標追跡等速描円運動課題にてポインタの動き開始時に気付かない、遅れてしまうことや単純反応課題にて反応速度や移動時間が平均年齢よりも遅れるなどが挙げられた。このことは、AD最初期や前駆期では単に記憶障害だけではなく、頭頂連合野(注意、構成、視覚性検索)および前頭連合野(注意と関連する前頭葉機能障害)の機能障害を呈していることを示しており、上肢運動機能評価システムは早期診断のための有用な検査と考えられ、今後更なる研究が必要と思われる。

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  • CRID
    1390282680601585280
  • NII論文ID
    130006985093
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2007.0.20.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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