当院における生体肝移植術後のリハビリテーション

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  • ~術後肝合成機能に着目して~

抄録

【はじめに】<BR> 生体肝移植(living donor liver transplantation)は肝機能の廃絶したレシピエントに、健康であるドナーの肝臓の一部を移植する手術である。肝移植を必要とする患者の多くは、全身状態が極めて悪化していることが多く、易疲労性、耐久力・持久力が低下しており、十分な術前リハの介入は行われていない状況にある。術後においては開腹後リハとして呼吸理学療法や運動耐用能の向上のため運動療法が実施されているが、リハを実施する際に生体肝移植術後に特化して、運動負荷量を決める基準は明確ではなくリハ効果についても、未だ科学的に実証されていない。今回の研究の目的は生体肝移植患者に有効で安全なリハを提供するために術後肝合成機能に着目し、生体肝移植術後のリハを実施する際の運動負荷量の指標として用いられるかということをカルテより後方視的に検討することである。<BR>【対象・方法】<BR> 2010年1~12月までの1年間に当院移植外科で生体肝移植術が施行され、術後入院期間中にリハビリ処方がされた5名(女性5名、平均年齢59歳)をカルテより後方視的に調査した。今回の検討項目としては 1) リハ期間中のアルブミン値の推移 2) リハ期間中のコリンエステラーゼ値の推移 3) リハ期間中のCRP値の推移の3項目を検討した。<BR>【結果】<BR> 1)アルブミン値の推移を示すとリハ期間中のアルブミン値が2.5以上の症例は歩行可能な傾向にあり、歩行レベルの内訳は独歩可能1名、歩行補助具なし監視レベル1名、杖歩行介助レベル1名だった。一方アルブミン値が2.5以下の2症例は歩行不可能で坐位レベルにとどまり、その後リハ中止・死亡となった。<BR>【考察】<BR> アルブミンは肝機能合成の指標とされ、減少する病態として肝硬変の他に炎症性疾患等がある。アルブミン低値では術後の合併症や高齢入院患者での死亡率が高まるという報告もあり臨床症状としては浮腫、腹水貯留等が見られ、生体肝移植術後の患者にも同様の臨床症状がみられることが多くリハの阻害因子と考えられている。他家の生体肝移植術後の先行研究では、Cortazzoらはアルブミン値が低い患者は高い患者よりも長期のリハとなり、FIMの改善も見られなかったと述べている。今回の研究結果よりリハ期間中のアルブミン値が2.5g/dl以上の傾向にある症例は歩行可能となったが、アルブミン値2.5g/dl以下の傾向にある患者は坐位レベルにとどまり予後も不良だった。よってアルブミン値2.5g/dlが歩行訓練実施グループと非実施グループを決める運動負荷量の指標となる可能性が考えられた。<BR>【まとめ】<BR> はじめで述べたように、生体肝移植術後に特化したリハの効果については未だ科学的に実証されていない。今回の研究において対象数は少ないが、生体肝移植術後のリハを実施する上でアルブミン値が2.5g/dl以上・以下によって、運動負荷量を調整する必要性が示唆された。最後に今回は生体肝移植術後のリハにおいてアルブミン値に着目してカルテより後方視的に研究を行ったが、今後の研究では体組成計、エコーなどで筋量(muscle mass)も測定しながら生体肝移植術後のリハ効果を科学的に検討していきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680601594368
  • NII論文ID
    130006985100
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2011.0.4.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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