長母指伸筋腱皮下断裂例に対する腱移行術後の早期運動療法

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説明

【はじめに】<BR> 長母指伸筋腱(以下EPL)断裂後の腱修復術後セラピィにて,我々は母指自動伸展運動を用いた早期運動療法を行い,良好な成績を獲得している.しかし,手関節部周辺でのEPL皮下断裂例に対する腱移行術後においてのみ,母指の伸展は良好だが,つまみ時に母指が内転する症例を経験した.再建した縫合腱の遠位滑走に抵抗する腱癒着と考え,今回2症例に術後早期から縫合腱の遠位滑走訓練をさらに追加し,目標を手関節軽度掌屈位での良好なつまみ形態の獲得としたので報告する.<BR>【症例】<BR> 両症例ともに約2ヶ月前に橈骨遠位端骨折の既往があり,他院加療中に母指伸展不能となり当院受診する.症例1,2各同意を得た50代,60代の女性.<BR>【手術所見】<BR> 両症例ともに橈骨遠位端部にてEPLが皮下断裂していた.固有示指伸筋腱をMP関節近位で切離し,EPL断裂部末梢に手関節中間位で母指伸展,背屈位で母指屈曲する緊張具合で編みこみ縫合した.<BR>【術後セラピィ】<BR> 術後翌日に腱縫合部を減張位にしたスプリントを作製し,術後6週間運動時以外装着させた.術後3週間は1日2セット,1セット約5~10回,以下の運動を行った.1holdingによる母指自動伸展可動域の確認,2母指関節拘縮予防に各関節単独の運動,手関節の軽い掌屈,3手関節中間位での軽い母指他動屈曲運動,母指CM関節掌側外転位での軽い母指他動屈曲運動も行った.術後3週から通常の母指自動伸展運動を追加し,術後6週時に目標が達成できるように徐々に手関節掌屈と縫合腱の伸張運動を強めた訓練を行った.<BR>【結果】<BR> 術後6週時の母指%TAMは症例1は96%,2は98%であった.手関節掌屈可動域も良好であった.目標とした手関節掌屈位でのつまみ形態も良好であり,両症例ともに不自由,愁訴なく社会復帰した.<BR>【考察】<BR> 今回の試みは腱縫合部を近位方向だけでなく早期から遠位方向に滑走させることである.腱移行術の場合,縫合部は編みこみ縫合などの強固な縫合が可能な反面,手術侵襲も大きく癒着も広範囲になりやすい.また,手関節部周辺での腱縫合部の滑走は手関節を含めた運動でなければ乏しくなりやすい.加えて長母指伸筋と固有示指伸筋の筋収縮距離の違いもある.臨床ではEPLは母指の内転作用の筋腱であり遠位滑走障害が生じるとつまみ時に母指が内転してしまう.特に手関節掌屈位ではなおさらである.そうした反省のもとに縫合腱を遠位滑走させるセラピィを追加した.結果,再断裂することなく非常に良好な成績を獲得できた.しかし,腱縫合部の遠位方向への滑走訓練は伸張方向の運動であり,再断裂や縫合部自体を伸張してしまう危険性が高い.そのため,手術見学での縫合状態,腱縫合部の滑走状態の確認を怠らないようにし,なおかつ母指自動伸展可動域の確認と伸張させる場合は縫合腱の緊張を触診,視診しながら慎重に行う必要があることを付け加える.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680601814528
  • NII論文ID
    130006985285
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2008.0.124.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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