左下顎歯肉癌術後に嚥下障害を呈した患者へのアプローチ

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抄録

【はじめに】<BR> 口腔・中咽頭癌の手術による切除で生じた機能形態障害が、食事や会話などの能力障害をひき起こすことが多々ある。今回、左下顎歯肉癌により左下顎と左舌を切除し、その後嚥下障害を呈した症例に摂食訓練を実施し摂取可能となったので、その経過と若干の考察を加えここに報告する。<BR>【症例】<BR> 80歳女性。H15年6月、左下顎歯肉癌により左舌半切(左可動域)、左下顎骨切除、頸部郭清術、腹直筋皮弁による口腔底再建術施行。その後嚥下障害を呈する。痰も多く、気切部より吸引することも頻回。経管栄養。<BR>○全身状態:術前は独歩レベル。術後は状態が安定しても精神面の不安定さから臥床傾向多く、座位は可能ながら起立保持・歩行が難しく耐久性の低下がみられた。<BR>○精神面:老年性うつ病、痴呆もあり術後管理の理解が難しく不穏状態であった。マーゲンチューブ挿入していたが自己抜去も頻回。気切のため筆談でのコミュニケーション。<BR>○口腔機能評価:術後1ヶ月からOT開始。<BR>(口腔運動)下顎:開口1横指程度。<BR> 口唇:開口・閉口可能だが常に開口していること多い。<BR> 舌 :左舌可動域部分は切除。右舌は常に右へ偏位している。前方への突出は口唇まで。前後・上下・側方の動きは弱い。(特に左側方は難しい。)(摂食機能) 捕食:口唇での取り込みは困難。咀嚼:(-)<BR> 嚥下:飲水テストでは食塊形成難しく上手く嚥下できない。食物テストでは、介助にて舌の後方にプリンをおくと頭部を後方に傾け重力を利用して咽頭へ流し込み嚥下する。嚥下のタイミングをはずすとむせこみ(+)左への食物貯留を防ぐため姿勢は軽度右側臥位にて施行。とろみをつけた食物になると口腔内貯留(+)舌の送り込み困難。<BR>【問題点】<BR> 1.嚥下のタイミングの不十分さ 2.口唇・舌運動の低下 3.モチベーションの低さ<BR>【治療目標】<BR>(STG)1.嚥下のタイミングの獲得 2.口腔運動の改善 3.重流食での摂食開始へ<BR>(LTG)1.ミキサー食の獲得 2.マーゲンチューブの抜去及びカニューレの抜去へ<BR>【摂食訓練内容】<BR> 1.摂食訓練:嚥下パターンの獲得、舌・口唇運動の促通 2.嚥下体操:運動機能の改善<BR>【経過と考察】<BR> 高橋久昭は「可動部舌の切除では障害の程度は舌がどの程度残っているのかによるところが大きく、嚥下訓練では残存舌をいかにうまく使うかが重要である。一般には患者自身の工夫により嚥下のタイミングを会得し、比較的容易に経口摂取が可能になる。」という見解を述べている。本症例は左舌半切の嚥下第1相が障害されているが嚥下第2相・第3相は比較的保たれているため、まず嚥下のタイミングを自分自身で習得することを目標とした。はじめは舌の送り込みが難しいため、臥位で重力を利用しプリンなどの食塊形成をしやすく飲み込みやすい食形態で2~3口から嚥下のタイミングを図りながら開始した。2週間過ぎると食塊形成ができ嚥下のタイミングを習得したため、重流食を開始。患者も食事が始まったことから意欲的になるとともに普段の生活でも臥床が減ってきた。徐々にむせこみも減り、摂取量も安定してきたためマーゲンチューブを抜去。そして3週間過ぎた時点で誤嚥の危険性も低くなりカニューレの抜去となった。抜去により言語コミュニケーションが可能となったことで情緒が安定し始めた。4週頃より舌の前後・上下の動きをさらに引き出すためミキサー食へと移行。食事姿勢もベッドアップ0度から徐々に45度まで(軽度右側臥位)あげ、重力を利用して食塊を舌の後方に送り込んでいたパターンを軽減し、舌での送り込みの向上を図った。はじめは口腔内貯留が顕著であり水で流し込むことが見られたが、徐々に舌の送り込みや動きが向上し口腔内貯留が減っていった。また食形態のアップで味がさらに良好となったことで患者の満足度があがり、活動性も増え近距離での歩行は可能となった。5週頃より全粥も開始しはじめ、舌でのつぶしの練習も開始した。カニューレ抜去後は自然閉鎖が難しかったため、5週目に気管口閉鎖術、頸部皮膚欠損閉鎖術を施行。経過良好にて6週頃転院の運びとなった。<BR>【まとめ】<BR> 1.左下顎骨と左舌を切除し嚥下障害をひきおこした症例に摂食訓練を行った。<BR>2.嚥下のタイミングを患者が獲得したことで経口摂取が可能となり、結果としてマーゲンチューブそしてカニューレから逸脱できた。<BR>3.食形態を徐々にアップしていったことで、舌の送り込みや動きが向上した。<BR>4.摂食訓練は患者のモチベーションを高めるとともに情緒の安定への1つの要因にもつながった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602354176
  • NII論文ID
    130006985842
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2004.0.114.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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