肺がん骨転移の一症例を通じて感じた進行がん患者の目標設定の難しさ

DOI

抄録

<p>【はじめに】</p><p>肺がんより第3胸椎骨転移を認め、不全麻痺を呈した一症例の理学療法を経験した。症例の要望に応じた目標設定と理学療法を行ったが、自宅退院に至るまでに約8ヶ月の期間を要した。目標設定に際して症例の進行がんに対する認識の評価と配慮が不十分であった為、反省点と今後の課題を踏まえ報告する。</p><p>【症例情報】</p><p>50代前半の女性、診断名は右肺がん。がんの進行と転移増大に関して告知済み。努力家で前向きな性格で、治療に積極的、介護への抵抗と自立心が強い。介入時は休職中。自宅には両親と姉が同居、一戸建てで玄関前に数段の階段がある。要望は「自分の足で歩けるようになりたい、また料理をしてみたい」である。</p><p>【現病歴】</p><p>X-6年右肺がんStageⅡAに対し右下葉切除術及び化学療法を施行。X-5年胸膜播種・肺門リンパ節転移・第3胸椎骨転移・脳転移を認め、放射線治療・γナイフ術施行。X年1月胸椎部疼痛・下肢麻痺出現(第3胸椎領域以下MMT1-2)、第2.3胸椎椎弓切除術・第1-5胸椎後方固定術施行。以降、当院・回復期病院にて計6ヶ月のリハビリを実施するが退院環境整わず。X年7月、肺がんと肋骨転移の増大を認め、化学療法及びリハビリ目的に当院へ再転院。主治医より自宅退院を目標にリハビリの依頼あり、理学療法介入となる。</p><p>【理学療法評価と目標設定】</p><p>入院時、Performance Status(以下PS):3。身体機能は第3胸椎領域以下に痺れと触覚鈍麻・両下肢痙性麻痺(MMT3-4)を呈していた。起居動作は自立・四点歩行器を使用して10mの移動が可能だが、立位場面で膝折れを生じることから歩行は非実用的、同理由から家事動作や階段昇降も困難であった。多職種で問題点と情報を共有し安全に自宅で生活を送れることを目標に退院支援を行う方針となった。</p><p>【経過】</p><p>入院後6週で四点歩行器を使用して安全に移動、伝い歩きも可能となり、PS:2へ向上、予定通り自宅退院した。した。「また仕事復帰ができるかも、普通の人みたいに歩けるようになりそう」などの発言が聞かれた。在宅では外出時に姉が階段昇降を介助する他ADLは自立し、日に一度は調理や皿洗いし、家庭での役割も果たされた。しかし、退院後3ヶ月(X年11月)、胸椎骨転移部の腫瘍が更に増大し対麻痺・歩行困難となる。対麻痺を呈した直後、「また振り出しに戻ってしまった。化学療法が効けばまた少しでも立てるようになるかな?」と発言があった。以降、化学療法を行うが奏功せず肺内転移は増大し胸水貯留・第8頸椎の骨転移と癌性疼痛が出現、リハビリ以外はベッド上、PS:3となる。「もう家には帰れないだろうね、でも少しでも起きれるようになりたい。」と病状を受け止められる。</p><p>【考察】</p><p>重度の痙性麻痺を呈した症例に対し、要望に応じた目標を設定し介入してきた。8ヶ月間という期間を要したものの目標が達成できた。しかし、退院後病状進行し再び対麻痺状態となった際に聞かれた発言内容から、症例は病態を十分に把握できておらず、治療に対する期待が大きかったことがわかった。今後は、進行していく疾患に対し本人・家族がどのように認識し、あるいはどのように受け止め、また要望はそれを踏まえたものであるかを医療従事者が把握した上で目標設定することが大切なのではないかと反省させられた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、患者情報を診療記録から抽出した。また、本人に症例報告を行うことに対し同意を得た。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602506624
  • NII論文ID
    130005175354
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_231
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ