くも膜下出血により遷延性意識障害を呈された症例に対する立位練習の試み

DOI
  • 太郎良 雄己
    地方独立行政法人 大牟田市立病院 リハビリテーション科
  • 山下 伸
    地方独立行政法人 大牟田市立病院 脳神経外科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>入院時くも膜下出血(Subarachnoid hemorrhage以下SAH)世界脳神経外科学会連合(World Federation of Neurosurgical Societies以下WFNS)gradeⅤの症例において、退院時転帰良好例(modified Rankin Scale 0~2)は全体の10.9%と報告している(小林ら,2015)。一方でWFNS gradeⅤの症例における退院時の意識レベルについての報告は、我々が渉猟し得た範囲では見当たらない。今回、SAH WFNS gradeⅤ発症後、意識障害を呈した症例を経験した。介入初期は端座位練習を実施したが、意識の改善が認められなかった。そこで、免荷式リフト歩行器(REH-100株式会社モリトー 以下POPO)、長下肢装具(以下KAFO)を併用した立位練習を実施したところ、意識障害に改善が認められたため報告する。</p><p>【症例・経過】</p><p>60歳代女性。職場にて頭痛・嘔吐を認め救急搬送。SAH (WFNS gradeⅤ、Hunt&Hess gradeⅤ、Fisher group 4)と診断された。頭部CTにて第4脳室穿破による著明な脳幹の圧迫所見を認め、内視鏡下血腫除去術を施行された。18病日より理学療法開始。初期評価では、JCSⅢ-200,Brunnstrom Recovery Stage(以下Brs)Ⅰ-Ⅰ-Ⅰ,NIHSS 35点,FIM 18点であった。理学療法は端座位練習を開始した。30病日、JCSⅡ-30まで改善したが、35病日にJCSⅢ-200の意識レベル低下を認めた。呼吸パターンはチェーンストークス呼吸(以下CSR)であった。動脈血ガス分析(以下ABG)にてPaO2 71.3mmHg,PaCO2 93.8mmHgとCO2ナルコーシスを認め人工呼吸器管理となった。38病日のABGにてPaO2PaCO2は正常範囲へ改善したため、端座位練習を再開した。しかし、意識障害(JCS Ⅲ‐100) とCSRは残存していた。</p><p>【方法】</p><p>45病日よりPOPO・KAFOを併用した立位練習を開始した。免荷量は40㎏とし3~4名介助にて実施した。173病日まで週5回、1回あたり20~40分継続した。免荷量は経時的に減量してゆき、最終的に15㎏とした。</p><p>【結果】</p><p>日中のCSRは97病日に消失した。178病日、JCS Ⅰ-3,Brs Ⅳ-Ⅴ-Ⅳ,NIHSS 20点,FIM 20 点と意識障害、運動麻痺に改善があった。立位時は、頸部・体幹・下肢の抗重力筋活動がみられ、体幹伸展位中等度介助に改善し、両下肢の支持性が認められた。</p><p>【考察】</p><p>本症例は、第4脳室穿破にて脳幹が圧排された事により脳幹網様体に損傷を受け、意識障害を呈していたと考えられる。脳幹に存在する神経伝達物質であるモノアミン作動系・コリン作動系は、骨格筋の筋緊張のコントロールに関与する。また、上行性網様体賦活系の活動を促し脳活動を亢進させると報告している(高草木ら,2003)。当院では従来、重度意識障害を呈した症例に対しては、端座位・ティルトテーブルによる介入を中心に行ってきた。しかし、本症例には意識障害の改善は認められなかった。そこで、POPO・KAFOによる立位姿勢は、足底・下肢からの体性感覚入力が抗重力筋活動(姿勢筋緊張)を高め、神経伝達物質放出を促し、意識障害を改善させるという仮説を立て、立位練習を実施した。POPOによる骨盤からの牽引が体幹の負担を軽減し、PTによる頸部・体幹の抗重力伸展活動(姿勢緊張)へのアライメント修正を容易にした。また、KAFOを使用した事により、足底からの体性感覚条件を整え、下肢抗重力筋の筋活動を促したと考えられる。その結果、神経伝達物質の放出が促された事により、抗重力筋活動が見られるようになり、意識障害が改善したと考えられる。今回、一症例であるため効果判定は困難であるが、症例を重ね実施方法や効果の検討を進めていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は、ヘルシンキ宣言に基づく同意書を用いて、ご家族の同意を得て作成した。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602507392
  • NII論文ID
    130005175355
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_227
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ